解説 皮膚変形計測制御技術の提案と電動義手への応用

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解説

皮膚変形計測制御技術の提案と電動義手への応用

Proposal of Skin Deformation Measurement Technology for Electrically Powered Prosthetic Hand

森 貴彦 清水如代

森 貴彦 正員 湘南工科大学工学部電気電子工学科

清水如代 筑波大学附属病院リハビリテーション科

Takahiko MORI, Member (Department of Electrical and Electronic Engineering, Shonan Institute of Technology, Fujisawa-shi, 251-8511 Japan) and Yukiyo SHIMIZU, Nonmember (Department of Rehabilitation Medicine, University of Tsukuba Hospital, Tsukuba-shi, 305-8576 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.102 No.12 pp.1122-1128 2019年12月

©電子情報通信学会2019

abstract

 筋電義手は,我が国では社会復帰促進等事業の下で毎年支給されている.しかし,その支給率は公的支給制度が整っている欧米に比べて際立って低い.近年,国内外で大学や企業による電動義手の研究開発が活発に行われている.しかし,汎用される国産の電動義手がないと言える現状である.従来の筋電義手が適用とならなかった短断端患者や麻痺患者をも対象とする,従来の計測制御技術とは異なった電動義手の開発が望まれる.本稿では,新たな計測制御技術として筆者らがこれまでに開発してきた皮膚変形計測制御技術とそれを応用した電動義手による臨床実験について紹介する.

キーワード:皮膚変形,計測制御,キャリブレーション,電動義手

1.は じ め に

 モータを用いて電動ハンドを駆動する方式の筋電義手は,ケーブルをけん引して手先具の開閉を行う方式の能動義手に比べて機能性や操作性に優れているため,新たな福祉機器として期待されており,我が国では厚生労働省管轄の社会復帰促進等事業の下でドイツOttobock社の筋電義手が毎年支給されている.しかし,川村らの調査結果(1),(2)によると,片腕前腕切断に対する義手における筋電義手の割合は,公的支給制度が整っている欧米ではドイツ70%,アメリカ25%,イタリア16%であるが,日本では2%と極めて低い支給率である.

 2013年度に施行された障害者総合支援法では,筋電義手は障害者自立支援法に引き続き基準外の特例補装具扱いのままである(3).一方,労働者災害補償保険法においては,2013年度から片側前腕切断者にも筋電義手の支給が拡大された.しかし,依然として装着訓練が可能な施設が少ない課題があり,この対策として適応判定・適合訓練を支援する体制の有効性に関する検証報告がある(4)

 Toledoらの文献(5)によると,世界全体では,既存の身体切断者の総数400万人(新規15~20万人/年を除く)のうち,上肢切断者数は全体の30%(120万人)である.そのうちの60%(72万人)が生産年齢人口に当たる21~64歳,10%(12万人)が21歳未満である.一方,日本では,内閣府が発表した平成25年版障害者白書(6)によると,在宅の上肢切断者の総数は約8万2,000人(身体障害児300人を含む)である.

 このように義手ユーザとなり得る潜在的な上肢切断者数が非常に多いにもかかわらず,日本での支給率は際立って低いことが分かる.その理由として,支給審査基準の高さだけでなく,費用対効果の低さ(機能とコストのアンバランス),デザインの見劣り,操作訓練の難しさなどが要因と考えられ,筋電義手の普及を妨げる課題となっている.これらの課題を解決すべく,近年,国内外で大学や企業による筋電義手や筋電を用いない電動義手の研究開発が活発に行われている.代表的なものは,横井らの乳幼児・小児用筋電義手(7),吉川らの距離センサによる筋の隆起を用いた3指電動義手(8)などが挙げられる.これらの電動義手は,低価格で高性能な3Dプリンタやマイクロコンピュータ(以下,マイコン)の普及により,機能やコスト,デザインの点において革新的に優れた特長を有し,市販化されているものもある.これらの電動義手は構造や形状,生体信号の取得方法,操作方法などが異なるものの,それぞれにおいて日常生活動作の補助を満足できる能力を獲得しつつあり,また,既存の筋電義手に対して費用対効果も改善されてきている.しかし,我が国で利用可能な電動義手は海外製品のみであり,汎用される国産の電動義手がないといえる現状である(9).従来の筋電義手が適用とならなかった短断端患者(用語)や麻痺患者をも対象にできるような,従来の計測制御技術とは異なった電動義手の開発が望まれる.


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