解説 あらせ衛星における交流磁界計測技術と波動粒子相互作用の衛星地上同時観測について

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解説

あらせ衛星における交流磁界計測技術と波動粒子相互作用の衛星地上同時観測について

Measurement Technology of AC Magnetic Field Aboard the Arase Satellite and Coordinated Observations of Wave-particle Interactions from Satellite and Ground

尾崎光紀

尾崎光紀 正員 金沢大学大学院自然科学研究科電子情報科学専攻

Mitsunori OZAKI, Member (Graduate School of Natural Science and Technology, Kanazawa University, Kanazawa-shi, 920-1192 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.102 No.12 pp.1129-1134 2019年12月

©電子情報通信学会2019

abstract

 地球周辺宇宙における放射線帯形成の詳細メカニズムを明らかにするため,広いエネルギー範囲(約20eV~20MeV)のプラズマ粒子と直流から広い周波数帯(直流~約10MHz)にまたがる電磁界・波動観測器を搭載したあらせ衛星が2016年12月に打ち上げられた.本稿では,放射線帯という特殊環境下で交流磁界計測用に開発されたあらせ衛星搭載サーチコイル磁力計について解説する.また,放射線帯形成に重要と考えられている波動粒子相互作用の詳細をあらせ衛星と地上観測により捉えた科学成果についても解説し,今後の科学衛星による電磁環境観測の将来展望について述べる.

キーワード:波動粒子相互作用,あらせ衛星,サーチコイル磁力計,オーロラ,放射線

1.は じ め に

 希薄なプラズマで満たされる地球周辺宇宙(静止軌道までの領域を対象)において,プラズマ粒子が高いエネルギーを有し,放射線として飛び交う領域(放射線帯(用語)またはバンアレン帯)の存在が知られている(1).放射線は物質を透過する能力が高く,かつ物質を透過する際にエネルギーを与えて物質を変質させる.放射線の特質を生かし,医療X線画像などの非破壊検査,がん治療,農作物の品種改良や新機能材料開発など,広く産業利用されている.一方で,放射線がコンピュータを構成するCPUやメモリなどの半導体に照射されると,半導体部品の劣化や動作不良,故障を引き起こすことも知られている(2).人工衛星には数多くの半導体部品が使われており,宇宙の放射線起因と考えられる人工衛星サービス障害も報告されている(2).このため,地球周辺宇宙での通信・放送,気象や測位などの衛星サービス高度利用において,持続的発展可能な宇宙産業基盤を構築していくために,プラズマ電磁環境の理解がますます重要になっている.しかし,地球周辺宇宙では,どのように放射線帯のプラズマ粒子(用語)が増減するのかについて十分に解明されていない.放射線帯のプラズマ粒子の増加に対し,低いエネルギーだった粒子が加速され高いエネルギー状態になる,または別な宇宙の領域の高いエネルギーのプラズマ粒子が放射線帯に輸送されてきたという物理が考えられている.放射線帯のプラズマ粒子の減少には,放射線帯のプラズマ粒子が消失する必要があり,プラズマ粒子の地球大気中への降下による消失,または宇宙の別な領域へ輸送されているという物理が考えられている.

 このような背景に対し,放射線帯形成の詳細を解明するために,通常は放射線環境が厳しく商業衛星などは飛翔しない地球放射線帯の中心部において広いエネルギー(約20eV~20MeV)範囲のプラズマ粒子と直流から広い周波数(直流~10MHz)範囲にまたがる電磁界・波動を総合観測するあらせ衛星(図1)が2016年12月に打ち上げられた(3).放射線となる高エネルギープラズマを調査するために,電磁波を観測する理由は,無衝突プラズマが電磁波を介してエネルギーの交換を行うという物理メカニズムが働くためである.これを波動粒子相互作用と呼ぶ.特に1990年代以降,放射線帯形成においてこの波動粒子相互作用が主要因と考えられるようになってきている(4).波動粒子相互作用は,電磁波を介してプラズマ粒子を加速させるプロセスだけでなく,地球の磁力線に沿ってらせん運動するプラズマ粒子を散乱させる.散乱されたプラズマ粒子の一部は,高度100km付近の電離層まで降下し,オーロラ現象として北極や南極地域で観測される.表1に本稿に関連する地球上層の領域と関連する自然現象の発生高度を示す.本稿は,放射線帯の電磁波観測のために筆者が開発に携わったあらせ衛星搭載用交流磁界センサ及びあらせ衛星と地上の協調観測により得られた波動粒子相互作用の観測成果について解説する.


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