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多様化する大学教育シリーズ(第1回)
解説
社会課題に取り組むワークショップとその効果
――琉球大学・京都大学合同デザインスクールの経験――
Workshop on Social Problems and Its Effects: From Our Experience with University of the Ryukyus and Kyoto University Joint Design School
abstract
本稿では,2013年から毎年実施している琉球大学・京都大学合同デザインスクールの経験を基に,社会課題に取り組むワークショップとその効果について述べる.取り組むテーマは毎年異なり,雇用問題や地方都市の活性化といった全国にもつながる本格的な問題を設定した.これまでの5年間で延べ158名の学生が参加し,沖縄・京都そして留学生といった異文化融合も含む横断討論を行い,互いの視野拡大・複合的な視点獲得を促進することで,多様なアイデアが生み出された.アンケートや追跡調査から,ワークショップ後の学びにも寄与する事例が現れ始めていることが分かった.
キーワード:デザイン学,デザイン思考,デザインワークショップ,分野融合,産官学連携
多くの場合,大学教育においては基礎的能力及び専門領域に根ざした力を学ぶためのカリキュラムが設計され,最終学年の卒業研究における課題解決を通して大学4年間の総仕上げを行う.このようなカリキュラム設計により,各々の専門領域に根ざした視点や考え方を体系的に学ぶ.一方で,解決が求められている社会課題は一つの専門領域だけでは解決困難であることが多く,異なる分野の専門家らとの領域横断的な協働が必要だが,社会課題を題材として実践的に学べる場は少ない.
これに対し,アクティブラーニングやワークショップといった「参加者が自ら参加・体験して共同で何かを学び合ったり創り出したりする学びと創造のスタイル(1)」に根ざした学習が実施されている.例えば文献(2)では,子供を対象としたワークショップにおいて「アイディアを形にし,内容や目的が変化することを前提とした話し合いを通してまた新しいアイディアに繋がることを目指す(阿部)」と述べている.大学生を対象とした例としては,質を高める工夫として多くのケースで「他者の視点強化,授業外サポート,カリキュラム・サポートが認められた(3)」との報告がある.他者の視点強化とは,他者の視点をより豊かに導入して自身の思考を相対化することである.また,サービスラーニング(用語)の視点からは,その世界についての前提条件と矛盾する状況や情報への驚きを目の当たりとし,そこから新情報入手や矛盾する情報の妥当性評価等を通した葛藤を解決することが,深い学びにつながる(4)と報告されている.
これらの報告を踏まえ,社会課題をテーマとした協働を実践する場として設計したワークショップが「琉球大学・京都大学合同デザインスクール(以下,合同デザインスクール)」である.大きな特徴は,①沖縄の社会課題をテーマとすること,②専門分野に加え,文化・生活圏等が大きく異なる双方の学生らが共に討論できる場を用意することの2点である.テーマ設定においては沖縄らしさに加え,議論の広がりを見込める全国につながる本格的な社会課題を採用した.また,主として琉球大学情報工学科(以下,琉球大情報)と京都大学デザイン学大学院連携プログラム(5),(6)に所属する学生が集った(表1).情報系の学生にとっては,地域活性化や都市計画という日常の生活に関わる身近なテーマの中で,急速に発展する情報通信技術を適用し,いかにイノベーションを起こすかを考える機会となった.また,領域横断的な協働により自身の専門領域と社会課題のつながりを意識することにもつながった.後述するように,グループワークの体験がその後の専門知識の学びにも寄与することも明らかになっている.
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