小特集 2. 自動作曲システムOrpheus

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創造性・芸術性におけるAIの可能性

小特集 2.

自動作曲システムOrpheus

Orpheus: An Automatic Music Composition System

嵯峨山茂樹

嵯峨山茂樹 正員:フェロー 明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科

Shigeki SAGAYAMA, Fellow (School of Interdisciplinary Mathematical Sciences, Meiji University, Tokyo, 164-8525 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.102 No.3 pp.214-220 2019年3月

©電子情報通信学会2019

abstract

 任意の日本語歌詞から自動で作曲するシステムOrpheusについて,その原理,構成などを解説する.歌詞からリズム木構造により統一感のある旋律リズムを生成し,日本語歌詞のモーラごとのピッチの高低と,和声学などの音楽理論による声部進行の禁則や非和声音規則などの複合的な確率的制約を満たす旋律を得る問題として旋律作曲を定式化し,隠れマルコフモデルのViterbi経路探索問題として解いた.更に伴奏生成や二重唱生成や歌声合成や自動作詞機能などを付加してWebベースの公開システムを実現した.作成された自動作曲作品数は40万曲,ページ閲覧は400万回を超えている.

キーワード:自動作曲,日本語韻律,和声,リズム,HMM

1.は じ め に

 本稿では,任意の日本語テキストを歌詞とする歌唱曲を自動作曲する手法について解説し,筆者らが2006年に開発し,翌年にWeb公開を開始し,その後も改訂を続けている自動作曲システム“Orpheus”(オルフェウス)を紹介する.この自動作曲研究では,日本語歌詞から多様な作曲が自動で常に一定水準以上で行えることを目標とした.歌詞がない器楽曲の自動作曲は多くの研究やシステムの例があるが,より強い要求は歌詞への自動作曲にあると考えた.

 我々が日常聴き慣れている音楽の多くは西洋音楽由来で,和声学をはじめとする理論(1),(2)があり,作曲するには作曲理論に習熟し駆使することが推奨されている.筆者らは,音楽理論は音楽生成の核であること,音楽要素は分解再構成可能であること,旋律と言語には深い関係があること,旋律リズムに統一感が必要であることなどの観点から研究を進めた.

 以下に筆者らの自動作曲の手法を要約して述べる.紙数の制約から自動作曲の歴史や他のアプローチなどについては割愛せざるを得ず,引用文献は最小限とするので,以前の解説(3)や文献(4)を参照されたい.

2.日本語歌詞からの自動作曲の定式化と方法

2.1 入力テキスト処理:読み・韻律推定

 ユーザから与えられた通常の日本語歌詞テキストに旋律を付けるためには,まず読みを決定し,モーラ(用語)数を音符数として決定し,後述する理由で文の韻律(イントネーション)を決定せねばならない.筆者らは,音声対話擬人化エージェント(5)の形態素解析と韻律推定の部分を利用した.

2.2 旋律リズム設定:リズム木仮説

 次の問題はリズム設計である.入力歌詞に七五調などの構造があれば容易であるが,部分ごとの長さが自由な歌詞を入力とする場合は,リズムがもたらす印象に統一感を保証する原理が必要である.

 そこで,筆者らはモーラ数の相違があっても,単一の木構造からリズムを導出することにより統一感のあるリズムパターンが生成できるとの「リズム木仮説」を立てた.図1の例のように,あるモーラ数の典型的なリズムパターンを「標準リズム」とし,それよりモーラ数が少ないリズムの音符を統合し,モーラ数が多い場合は音符を分割することで木構造とすることで,多くの木構造を手作りで作っておく.入力歌詞に対して,一行ごとの歌詞のモーラ数に合致した木階層を抜き出すことで,複数行の歌詞に統一感のあるリズムを抽出できる.既存の楽曲にもこのような構造が見られる(6)


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