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3. IoTの活用分野と応用例
特集3-4
IoTを活用した富士山見える化の取組み
――過酷な自然環境下でのIoT取組み事例紹介――
An Activity for Visualization of the Number of Climbers on Mt. Fuji Using by IoT
abstract
近年,様々な機器にインターネットなどへ接続する通信機能を搭載し,遠隔からの機器制御や測定結果のリアルタイム収集などを可能とする,IoT(Internet of Things)技術の研究開発や実証実験などが推進されている.本稿では2017年から富士山で実施している,IoT技術を活用した登山者数の見える化に関する取組みを紹介する.その後,2年間の取組みを通して収集した測定結果を分析し,富士山に訪れる登山者と観光客の行動を見える化した結果を述べる.また,富士山におけるIoTデバイスの運用経験から,自然環境の情報を継続的に測定する難しさについて述べる.
キーワード:IoT,登山者数カウント,距離センサ,LPWA
富士山は2013年に世界文化遺産へ登録され,毎年多くの登山者や観光客が訪れている.2018年度は開山期間である約2か月間で,約20.8万人もの登山者が富士山の山頂を目指したことが環境省により報告(1)されている.富士山の登山者数を測定する取組みは環境省のほかにも,富士山周辺の各地方自治体が実施している.登山者数の測定結果は,登下山道や登山道周辺に整備されているハイキングコースの利用実態把握に活用され,登山者の安全管理や,登下山道の整備計画の策定に利用される.また,人の移動や人数をセンサ測定により数値化し,蓄積したデータの分析から登山者の行動パターンを推定することで,登山者の安全確保を含む各種施策の展開などへ応用が期待できる(2).
環境省や地方自治体が設置している登山者のカウンタの多くは,機器のローカル記憶媒体に測定結果を蓄積する.そのため,一定期間ごとに管理者がカウンタの設置場所を訪れ,測定結果の回収と集計を行う運用形態である.これは,カウンタの設置場所は外部からの給電が不可能な場所が多く,消費電力が大きい3Gや4G/LTE(Long Term Evolution)の通信機能を搭載することが困難なことや,カウンタを設置する場所は携帯電話のエリア範囲外である場合が存在することが理由として考えられる.しかし,登山者数の測定結果はカウンタから回収するまで確認ができないため,登山者や観光客の移動,及び行動実態を調査するには数週間の時間差が発生することになる.富士山を含む国内の山には開山時期が設定されていることがあり,登山者数の集計は閉山後に行われることが多い.そのため,収集したデータを活用したリアルタイムな情報提供が困難となる.
本稿では,IoT技術により収集したデータを活用して,富士山の登山者へ安全で快適な登山の実現に役立つ情報を提供することを目的とした,富士山見える化の取組みを紹介する.富士山の見える化を実現するために,LPWA(Low Power Wide Area)(3)の通信機能を有するIoTデバイスを試作開発した.IoTデバイスは単一の距離センサによる登山者数のカウント機能と,登山者の移動方向の推定機能,登山道の温度や湿度を測定する機能を有する.その後,試作開発したIoTデバイスを用いて,富士山の登山者数や環境情報を収集し,測定結果のデータ分析を実施した.また,収集したデータは富士山の開山期間中にWebサイトで一般公開した.以降の章では試作したIoTデバイスの詳細と,見える化システムの詳細について紹介する.また,測定結果のデータ分析から見える化できたことについて述べる.
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