巻頭言 ICTによる学会活動の推進

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Vol.102 No.6 (2019/6) 目次へ

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巻頭言

ICTによる学会活動の推進 Promoting IEICE Activities by ICT副会長 今井 浩

 本会は電子情報通信技術ICTを推進し,従来の社会を変革して21世紀の新しい情報ネットワーク社会をもたらしている.面白いことに,その活動がもたらした新社会の課題が,学会活動にブーメランのように戻ってきている.2017年に本会は創立100周年を迎え,創立100周年宣言では「新たな学術領域」・「課題解決とビジョン作成」・「技術倫理の向上と社会への発信」を軸とし,101年目の安藤会長の会長就任あいさつで,少子高齢化やオープンサイエンスの流れ,皮肉にもインターネットの普及による情報入手手段の変化など,学会活動の改革は待ったなしとされている.創立100周年記念事業積立資産からの資金も当てて,学会の基礎体力をつけるためのグランドデザインを行うことも述べられている.

 2019年からその成果として,新システムサービスが順次開始されている.2月から会員マイページが刷新され,会誌会告にあるように機能面でも利便性の面でも向上したものになっている.4月からは,学会コンテンツの電子化とオープンアクセス化の面で,20世紀末からオンライン公開されてきた和英論文をはじめ,会誌のSGML文章をスマートフォンで閲覧でき,pdfダウンロードも可能なサービス提供,そして学会で84の研究専門委員会による技術研究報告の電子化・オンライン公開進行に加え,大会・国際会議プロシーディングズを含めて約40万件の文献を検索・閲覧できるようになっている.(技術研究報告の一部は来年本格運用の予定.)会員への冊子体での会誌提供は継続しており,一方で大会DVDの個人向け販売を停止した.今回のシステムでは財務も含めた「持続可能な学会運営」の観点からのデザインがなされており,2017年5月に設置されたグランドデザイン検討WGによる立案を基に推進してきた.「持続可能な開発のためのアジェンダ2030(SDGs)」は現在の科学技術を取り巻く大きな流れになっている中,学会活動のSDGs課題解決に取り組んできたと言える.その中では既存事業のデータ利用も徹底されており,学会コンテンツのメタデータ統一やインターネットの先端技術のLinked Open Dataを用いた前事業で構築・整備したデータの活用も行われている.

 創立100周年宣言に戻って学会が自らの運営での課題解決とビジョン作成を行うという面では,今後更なる施策検討・実施が必要である.学会コンテンツを充実させていくこと,特に本会として国際会議プロシーディングズをどのように展開して世界学会としての情報発信を,英文論文誌等に加えて充実させていく施策がポイントとなる.財務面からの持続性については,コンテンツを作成・情報発信していく際のステークホルダーが多岐にわたる中,誰がどのように財務負担をしていくかを,オープンサイエンスの時代に対応していく必要がある.本会では図書館等の組織の会誌・論文誌購読を従来は特殊員という会員制度で進めてきたが,今回のシステム改革に応じて購読会員として新たに再編し,対象を上記のように拡大して,購読会員マイページでの運用効率化も実現している.以前には,論文誌等での著者負担の掲載料と購読会員等の購読者負担料金を得た上で著者が機関リポジトリ・プレプリントサーバに無料公開可能なGreen Open Accessと呼ばれるものを実現してきたところであるが(本会では更に猶予期間(Embargo)なしで),2018年からOpen Access Option支払いがあったものは無料公開するHybrid版を導入している.一方,著者が掲載料負担をして無料公開とするGold Open Accessについては従来からELEX,NOLTA,ComEXという英文レター・ジャーナルを有しており,他の論文誌でもそのGold Open Accessを目指そうという意見もある.ヨーロッパを中心に短期間でGold Open Accessを実現しようという‘Plan S’という野心的で世界を混沌とさせる大きな動きもある中,本会としてしっかりとした見識を持ち,将来持続可能であるモデルを検討する必要がある.最初に書いたように,本会の活動そのものがもたらした現在の情報ネットワーク社会の中,100周年を越えて未来を開く学会活動を行うという至上命題として,これら諸課題に真摯に取り組んでいきたい.


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