名誉員推薦

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Vol.102 No.7 (2019/7) 目次へ

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名誉員推薦(写真:敬称略)

石田 亨

石 田  亨

推 薦 の 辞

 石田 亨君は1978年に京都大学大学院工学研究科修士課程を修了され,同年,日本電信電話公社(現日本電信電話株式会社,NTT)に入社されました.その後,1993年に京都大学工学部教授に就任されました.その間,1989年に京都大学から工学博士の学位を授与されています.その後,1998年に同大学院情報学研究科教授となられ,2019年3月に定年退職されました.これまでに,ミュンヘン工科大学,パリ第六大学,メリーランド大学,上海交通大学,清華大学,香港浸會大学,新疆大学などの客員教授も務めておられます.2019年4月からは早稲田大学理工学術院にて教育研究を継続され,現在に至っています.

 同君は長年にわたり人工知能,特にマルチエージェントシステムに関する教育研究に従事され,また,ディジタルシティ,言語グリッドなど情報技術と社会をつなぐ研究プロジェクトを推進し,多数の先駆的な研究成果を挙げられました.

 一例として,都市の物理空間と情報活動の融合を目指すディジタルシティの研究を行われました.ディジタルシティ京都と呼ばれる学際的活動は産学官民100名以上が参加する地域フォーラムを生み,我が国で初めて三次元仮想空間に都市を再現しました.また,CREST「デジタルシティのユニバーサルデザイン」としても実施され,世界のディジタルシティ活動に影響を与えるものとなりました.

 また,インターネット上の多言語サービス基盤「言語グリッド(The Language Grid)」の研究開発を主導されました.2007年12月の京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻における言語グリッド運営開始以降,多くの教育研究機関やNPOが参加する活動へと発展しており,2018年9月現在,24か国,183の組織が参加するものに発展しています.

 これらのほかにも,日本人専門家によるベトナム農業支援を目的として,メコンデルタ地帯の農村地区の農家を対象に,ベトナム農務省,NPOパンゲア,東京大学等の協力を得て,Vinh Long省において延べ16か月の多言語支援の実証実験を実施するなど,研究成果の社会展開を進められました.

 本会においては,情報・システムソサイエティ会長,本会副会長などを歴任され,本会の発展に貢献されました.本会以外でも,JSTさきがけ「情報環境と人」の領域総括,日本学術会議会員を歴任されました.また,国外の活動としては,エージェント関係の三つの国際会議の統合に尽力し,その結果生まれた自律エージェントとマルチエージェントシステム国際会議(AAMAS)の第1回の実行委員長を務められました.この研究分野を統括する自律エージェントとマルチエージェントシステム国際財団とその前身の理事を10年務め,IEEEフェローの称号を授与されるなど,多くの公的活動にも尽力されました.

 これらの業績から,本会業績賞,功績賞,更に電気通信普及財団賞テレコムシステム技術賞,文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)などを受賞されておられます.また,上述のIEEEに加えて,本会と情報処理学会からもフェローの称号を授与されておられます.

 以上のように,同君のマルチエージェントシステムに関する研究及び情報技術と社会をつなぐ様々な研究プロジェクトの電子情報通信分野への貢献は顕著であることから,ここに本会の名誉員として推薦致します.

区切


佐藤健一

佐 藤 健 一

推 薦 の 辞

 佐藤健一君は,1978年3月に東京大学大学院工学研究科修士課程を修了され,同年4月に日本電信電話公社(現日本電信電話株式会社,NTT)に入社されました.その後2004年4月に名古屋大学大学院教授に就任,2019年3月に同大学を定年退職され,同大学名誉教授の現在は,産業技術総合研究所にて研究開発を継続されています.

 同君は40年以上にわたり,一貫して先進的な通信ネットワーク技術の研究開発に携わり,様々な新しい研究領域を開拓し,その後のネットワーク開発に大きなインパクトを与えてきました.主要な功績は以下のとおりです.

(1)ATM(Asynchronous Transfer Mode:非同期転送モード):同君はATM研究のパイオニアとして1985年に世界に先駆け,バーチャルパス(VP)の概念を提案しました.VPの概念は1990年に国際標準化機関CCITT(現ITU-T)にて国際標準となり,ATM網構築に不可欠な基本概念として,またその後のIP網のバックボーン構築技術として世界で広く使用されています.同概念はその後,IP網のMPLS(Multiprotocol Label Switching)におけるLSP(Label Switched Path)に発展し,IP網構築の基盤技術となっています.

(2)フォトニックネットワーク:同君は1992年から,光技術をノードのルーチング処理に利用する新たなネットワーク技術,すなわちフォトニックネットワーク技術の研究を世界に先駆けて開始しました.ノードで光信号のままルーチングを行う光パスの概念を含むフォトニックネットワークの基本アーキテクチャを提案するとともに,その実現に必要となる,光クロスコネクトシステム/光挿入分岐システム,フォトニックルータシステム並びに一連のキーテクノロジーの先駆的研究開発を行いました.同君らの発明による光スイッチ構成は,現在広く実用化されているノード構成に適用されています.フォトニックネットワークの概念は世界的に大きなインパクトを与え,ITU-Tにて関連する各種世界標準が確立されました.

 これらの業績によりIEEE Fellow Award,本会業績賞,文部科学大臣賞(研究功績者),本会フェローなどを受賞されています.

(3)フレキシブル光ネットワーク・ノード技術:同君は上記分野を含む将来の光ネットワーク技術に関する研究を推進しました.特に超大容量光ネットワーク,同ノード開発でキーとなる新しい光クロスコネクト構成の提案,超低消費エネルギーネットワーク構成技術等に関する研究を行い,得られた研究成果に対しては,2件の本会通信ソサイエティ論文賞をはじめ,国際会議等で多数の受賞を受けています.

 以上のように,同君は約40年余にわたり通信ネットワーク技術に関する世界的なオピニオンリーダとして研究開発をけん引し,その成果により今日世界で広範に利用されている広帯域通信ネットワークの発展と産業への多大な貢献を果たしてきました.これらの貢献に対し,本会功績賞,紫綬褒章を受賞されています.

 同君はこれまで100を超える国際会議/ワークショップで,各種の運営にも携わり,特に,IEEE/OSAの主催するOFC 2016においては,日本人として初めてGeneral Chairを務めるなど,国際的にも幅広く貢献されました.国内では,本会編集理事,研究専門委員会委員長(CSとPN)として研究活動をけん引するとともに,副会長並びに会長として学会の運営にも貢献しました.その他,産学官のフォーラムであるフォトニックインターネットフォーラム会長として,通信分野での我が国の競争力向上に向けた各種プロジェクトの提案・推進や啓発活動にも力を注いでおられます.

 以上のように,同君が電子情報通信分野の発展に貢献された功績は極めて顕著であり,ここに本会の名誉員として推薦致します.

区切


土井美和子

土井 美和子

推 薦 の 辞

 土井美和子君は,1977年東京大学工学部電子工学科を卒業,1979年同大学院工学系研究科電気工学専攻修士を修了し,同年,東京芝浦電気株式会社(現(株)東芝)に入社されました.2002年東京大学から博士(工学)の学位を授与され,2008年から(株)東芝研究開発センター首席技監,その後,国立研究開発法人情報通信研究機構監事,奈良先端科学技術大学院大学理事,(株)野村総合研究所社外取締役に就任され現在に至っています.また,2012年から大阪大学招へい教授,東京農工大学客員教授,国土交通省運輸安全委員会委員も務めておられます.企業の研究者としての業績は特筆すべきものがあり,また電子情報通信の分野における女性研究者の先駆けの一人として活躍されています.

 同君は,一般ユーザが計算機を当たり前のように使う時代に備えてヒューマンインタフェース(HI)技術の研究開発を(株)東芝において推進し,プログラムなしに計算機を使って文書やプレゼンテーション資料などの作成,翻訳などを容易に行えるHI技術の実用化を行いました.

 主要な研究成果のうち,「図表のアンカリング技術」は,文書の中で図表を参照する段落に錨(アンカ)を打ち込むことにより,段落の位置変更に,図表が自動的に追随する技術です.「文書構造抽出技術」は,文書を解析し,自動的に章番号や箇条書きの記号などの書式を合わせる機能を実現するもので,現在は文書のオートフォーマット機能として広く利用されています.また「機械翻訳編集技術」では,翻訳作業において原文と訳文の照合と編集が簡単に行える対訳編集機能を実現しました.

 これらの先駆的技術は,東芝製品に限らず,全世界でMS-Officeあるいはその互換文書関連ソフト,Webページ作成ソフトで実施されています.また,世界初の携帯電話による道案内サービスekitan.comなどのサービス開発をはじめ,海外172件,国内165件の特許取得など,HI技術の振興に大いに貢献しています.

 本会においては,長年企画室委員を務め,電子ジャーナルの有料化WGリーダーとして2005年の有料化を推進しました.ほかに企画理事,総務理事,監事,クラウドネットワークロボット研究専門委員会副委員長などとして,学会の運営と活性化に尽力されています.また,情報処理学会副会長,電気学会副会長,映像情報メディア学会会長などを務められたほか,総務省情報通信審議会委員,第20期日本学術会議会員,第22期,第23期日本学術会議会員,第三部幹事,副部長など技術振興,学術振興に関わる各種会議において重要な役職を歴任されています.

 開発した「図表のアンカリング技術」はソフトウェア技術で初の全国発明表彰を受賞しています.また,情報処理分野の発展に貢献した功績に関して,「情報通信月間」総務大臣表彰,科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞を受けるとともに,日本ITU協会賞特別賞,本会業績賞及び功績賞,本会フェロー,更に,情報処理学会功績賞,同会フェロー,IEEEフェロー,日本工学会フェローなど合わせて22件の表彰を受賞しています.

 以上のように,同君のヒューマンインタフェースに関する研究業績に加え,本会及び電子情報通信分野の発展への貢献は極めて顕著であり,ここに本会の名誉員として推薦致します.

区切


西関隆夫

西 関 隆 夫

推 薦 の 辞

 西関隆夫君は,1974年に東北大学大学院工学研究科博士課程を修了され,同年同大学工学部通信工学科助手に就任し,1976年同助教授に,1988年同教授に昇任されました.その間,1977年4月から1年間,カーネギーメロン大学に客員数学者として滞在されました.1993年に東北大学大学院情報科学研究科設立に伴い,同システム情報科学専攻アルゴリズム論分野の教授として,アルゴリズム理論を中心に,情報科学の研究教育に取り組まれました.2008年から2年間同研究科長として管理運営を担われ,2010年に東北大学名誉教授の称号を授与されました.また,2010年から2015年まで関西学院大学理工学部教授を,2016年から2018年まで北陸先端科学技術大学院大学の監事を務められました.

 同君の電子情報通信分野における貢献は,アルゴリズム理論,グラフ理論,回路網理論,情報セキュリティなど多岐にわたります.当時数学の一分野であったグラフ理論や離散数学を,情報通信の主要技術である回路やネットワークの諸問題に結び付け,グラフアルゴリズムを学術分野として立ち上げたパイオニアとして世界に認められています.

 特に,グラフ上の重要な最適化問題の多くが,一般のグラフに対しては効率的な解法を持たない(専門的にはNP困難)にもかかわらず,木のような特殊なグラフに対しては効率的に解けることに着目し,グラフの構造的性質をアルゴリズムに生かすという画期的なアイデアを提案され,グラフアルゴリズムの研究の大きな流れを生み出しました.具体的には1982年にJ. ACMに発表した論文において,構造的性質を生かしたアルゴリズム設計手法の統一的な枠組みを示し,重要な最適化問題のほとんどが,電気回路で言うところの直列接続と並列接続を繰り返して構成される直並列グラフに対しては線形時間で解けることを示しました.この結果は大きな驚きをもって世界に受け入れられました.更にその後,この理論を部分math木と呼ばれる「木幅」をパラメータとした計算理論に拡張し,従来の予想を覆す画期的な成果を与えられました.このアイデアは,パラメータ化複雑度理論と呼ばれる研究分野に発展し,世界的に研究され続けています.

 また,グラフ描画は,Web解析やカーナビゲーションなど,日常的に重要な情報可視化技術の基盤となるものですが,これは同君が世界に先駆けてその重要性を提唱したものであり,著書Planar Graph Drawing(World Scientific社,2004)は広く世界で読まれる文献です.更に,情報セキュリティの分野でも,任意のアクセス構造を実現できる秘密分散共有法の発明や秘密鍵共有プロトコルの開発などの独創的な研究をされておられます.

 これらの研究成果は内外で極めて高い評価を受け,ACMとIEEEのフェロー,船井情報科学財団振興賞(2002年),文部科学大臣表彰科学技術賞(2008年)など多くの賞を受賞され,本会でもフェロー,論文賞,業績賞,功績賞などを受賞されておられます.

 学会活動においても,日本国内はもとより,アジア太平洋地区で最も権威あるアルゴリズムと計算理論の国際会議であるISAAC(International Symposium on Algorithms and Computation)を1990年に創設され,1992年から2008年までの17年の間,同会議のAdvisory Committeeのチェアとして会議の運営及び企画を担い,アジアにおける同分野の学術振興を先導されました.また,国際会議Graph Drawingの設立に尽力し,長年運営委員を務められました.

 以上のように,同君のアルゴリズム理論を中心とした電子情報通信分野への貢献は顕著であり,ここに本会の名誉員として推薦致します.

区切


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