功績賞贈呈

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Vol.102 No.7 (2019/7) 目次へ

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第80回 功績賞贈呈(写真:敬称略)

 本会選奨規程第7条(電子工学及び情報通信に関する学術又は関連事業に対し特別の功労がありその功績が顕著である者)による功績賞(第80回)受賞者を選定して,2018年度は次の5名の方々に贈呈した.

大石進一

大 石 進 一

推 薦 の 辞

 大石進一君は,1976年3月に早稲田大学理工学部電子通信学科を卒業後,1981年に同大学院理工学研究科電気工学専攻電子通信学分野博士後期課程を修了されて工学博士の学位を取得されました.1980年4月に同大学理工学部助手に就任され,1982年6月に同専任講師,1984年4月に同助教授,1989年4月に同教授に昇任されました.2010年9月から2014年9月まで早稲田大学理工学術院基幹理工学部長兼基幹理工学研究科長,2014年9月から2016年9月まで早稲田大学理工学術院長を歴任されました.

 同君はこの間,電子情報通信理論の数理,特にソリトンや非線形解析などの非線形理論とその応用,精度保証付数値計算の研究に取り組むとともに,学生の教育に尽力し,数多くの優秀な研究者・技術者を学界・産業界に送り出されました.

 同君の主要な研究業績は下記のようにまとめられます.①非線形抵抗回路方程式のような,解の存在が大域的に保証される非線形問題の解を必要な桁まで正しく計算する手法を,精度保証付数値計算法を利用して確立されました.②非線形常微分方程式の境界値問題の解の存在を精度保証付数値計算法で検証する方法を示されました.更に,これが非線形力学系のホモクリニック分岐の証明に利用できることを示され,非線形問題の精度保証付数値計算を利用した計算機援用証明手法の有用性を実証されました.③線形方程式の高速精度保証法に関して,丸め誤差の制御による行列レベルでの区間演算法を創始され,精度保証付数値計算法が,正しい結果を高速に得るという本来的な数値計算学の基礎をなすことを実証されました.この方法により,近似解を得るのと同等の手間から数倍の手間で線形方程式の精度保証が可能であることが明らかになり,精度保証付数値計算法が一気に実用化しました.④エラーフリー変換法の概念を導入され,計算精度を自動的に変更して必要な桁まで計算する高速な可逆数値計算法を確立されました.これにより,数値計算ライブラリを必ず必要な桁まで正しく高速に計算できるように改善できることが分かり,エラーフリーな工学アルゴリズムの設計法の確立が可能になりました.⑤だ円形偏微分方程式の固有値問題の下界の計算法を開発されました.これは有限要素法を用いた広い範囲の問題に適用できる有効な方法で,偏微分方程式の精度保証付計算法の基礎となるものです.⑥非線形問題の解を解析的に求めることは困難なことが多く,電子情報通信分野においても非線形問題はカオス,ソリトンなどを含めて多様な問題に現れます.それを精度保証付数値計算に基づく計算機援用証明法によって解析する一つの分野を確立されました.

 これらの成果に対し,本会論文賞・猪瀬賞・業績賞,文部科学大臣表彰科学技術賞,紫綬褒章など多数の学術賞を受賞されたほか,本会,日本応用数理学会,日本シミュレーション学会からフェローの称号を授与されています.

 同君は,本会の副会長,基礎・境界ソサイエティ会長,英文論文誌NOLTA,IEICE編集委員長,非線形問題研究専門委員会委員長などの重要な職責を担い,非線形理論とその応用に関する国際会議NOLTA Symposiumの創設に関わり,世界的な国際会議の一つに育てておられます.文部科学省理工系委員会委員,文部科学省HPCI推進委員会委員などを歴任されるとともに,早稲田大学理工学術院では学術院長として情報通信学科の設立や情報通信系の研究所の設立に大きく貢献されました.

 以上のように,同君の電子情報通信分野における功績は誠に顕著であり,本会功績賞を贈呈するのにふさわしい方であると確信致します.

区切


喜連川 優

喜連川 優

推 薦 の 辞

 喜連川 優君は,1978年3月に東京大学工学部電子工学科を卒業,1983年に同大学院工学系研究科情報工学専攻博士課程を修了し,工学博士の学位を授与され,同年4月に同大学生産技術研究所講師,翌年助教授,1997年から教授となられ,2013年から国立情報学研究所の所長を務めておられます.

 同君は長きにわたり,データベース分野において数多くの顕著な業績を挙げてきました.ハッシュを利用した関係データベース演算の高速実行方式の研究において,世界の中心的研究者としてリードし,従来の単純な手法ではレコード数の二乗の演算コストであったのに対し,動的デステージング手法やバケツ調整等の工夫並びに種々の実装を重ね線形コストで実現するGRACEハッシュを開発しました.当該方式はウィキペディアでも関係データベース処理の基本方式として取り上げられています.今日の主要なデータベースソフトウェア全てがハッシュアルゴリズムを採用するに至っており,同君の研究はその基盤を形成しました.

 同君は同時期にハードウェアソートの研究も行い,商用化レベルにまで研究開発を進め,オフコンに搭載されました.当該システムはDatamationソートベンチマーク(1レコードが100Byte,100万レコードのソート)で2000年に初めて1秒以下という性能を達成し世界レコードを塗り替える成果を出しました.

 これらをはじめ多くのデータベースの高性能化に関する業績に対し,データベースシステム研究における最高峰ACM SIGMOD E.F Codd Innovations賞をアジアで初めて受賞されました.

 更にビッグデータ時代に向け非順序実行原理と名付けた独自のデータベース実行方式を2000年代に創案し,研究開発を進められました.非同期技術を駆使した当該手法は日米で特許化され日本では発明協会における大学部門の最高の賞である21世紀発明賞を受賞しました.日本で30人の研究者が選ばれた内閣府最先端研究開発プログラム(FIRST)において更に発展させ1,000倍の高速化を達成するとともに日立製作所と共同で実用化し,世界で初めてTPC-Hベンチマークにおける100TByteにエントリーを果たしました.同君は当該手法を医療分野におけるレセプトデータ解析に適用し,我が国において初めて全レセプトを利用可能とする超高速解析プラットホームを構築した(現在6年分,約2,000億レコード).当該システムは多くの研究者に利用されています.

 地球環境超巨大データプラットホーム構築の研究を30年以上進められ,現在容量は35PByteを越え,世界的にも極めてユニークなシステムとなっています.国土交通省からの衛星画像,河川のテレメトリー,レーダ等のデータがリアルタイムに集積され,数多くの温暖化予測データも格納されています.アジアを中心とする測定データも多く,アクセスの半数は海外からとなり,多様な応用が開発されています.スリランカ,タイ,南アフリカなど海外との連携も活発に行われています.

 上記の業績に対し,本会,IEEE,ACMからフェローの称号を授与されるとともに,本会業績賞,紫綬褒章,レジオンドヌール勲章シュバリエ等数多く受賞されています.

 同君は本会副会長,データ工学研究専門委員会委員長を務めるとともに,情報処理学会会長,日本データベース学会会長,IEEE ICDE(Int. Conf. on Data Engineering)ステリング委員長,日本学術会議情報学委員会委員長等も務め,国内,国際両面で情報分野の振興に大きく貢献しておられます.

 以上のように,同君の本会並びに電子情報通信分野における貢献は極めて顕著であり,本会の功績賞を贈呈するにふさわしい方であると確信致します.

区切


三村髙志

三 村 髙 志

推 薦 の 辞

 三村髙志君は1967年関西学院大学理学部物理学科を卒業,1970年大阪大学大学院基礎工学研究科物理系修士課程を修了され,その後,富士通株式会社に入社され,半導体電子デバイスに関する研究に従事されました.1982年に大阪大学から工学博士の学位を授与されています.1990年(株)富士通研究所厚木研究所主席研究員,1998年同社フェロー,2017年同社名誉フェローとなられ現在に至っております.この間,2006年から独立行政法人情報通信研究機構客員研究員,2016年から国立研究開発法人情報通信研究機構統括特別研究員を務められています.

 同君は,長年にわたり半導体を用いた高速電子デバイス並びにその産業応用に関する研究開発に取り組まれ,これらの技術を基に情報通信社会の発展に大きく貢献しました.とりわけ,1979年に発明した高速電子移動度トランジスタ(HEMT: High Electron Mobility Transistor)は,移動度の高い電子を利用する新しい構造のトランジスタであり,2種の半導体間に形成されたヘテロ接合界面に高密度の電子が生成されることを利用して,電子走行層を不純物から空間的に分離できることに着目したもので,ヘテロ接合を利用した電界効果素子を世界で初めて実現したとして極めて高い評価を得ました.その後もHEMTの高周波素子・高速素子としての実用化に向けた研究開発を先導され,1985年には電波望遠鏡用の低雑音増幅器として初めてHEMTを製品化し,未知の星間物質の発見など電波天文学に大躍進をもたらしました.続いて,民生用途でも衛星放送受信機用低雑音増幅器の性能を大幅に向上させることによりパラボラアンテナ径を30cm級に画期的に小さくすることに成功し,衛星放送の爆発的な普及に貢献して情報流通のグローバル化を促し,社会的に大きなインパクトを与えました.その後もHEMTは,自動車の衝突防止レーダ用高周波増幅器,携帯電話基地局用高出力増幅器などに幅広く使われており,安全安心な高度情報化社会の実現に大きく貢献しています.また,HEMTは高周波・高速電子デバイス分野で新たな学術領域を開拓しました.発明後40年近くたった現在においても,HEMTの高性能化とシステム応用に関する研究開発は活発に進められており,多くの若手研究者を輩出し続けています.

 これらの業績により,同君は1982年に本会業績賞,1990年IEEE Morris N. Liebmann Memorial Award, 1992年社団法人発明協会恩賜発明賞,1998年紫綬褒章,2004年応用物理学会業績賞,2017年公益財団法人稲盛財団京都賞(先端技術部門)を受賞されています.また,本会,応用物理学会,並びにIEEEからフェロー称号を授与されています.

 以上のように,同君は半導体電子デバイス並びにその応用技術を基とする電子情報通信分野の発展への貢献は極めて顕著であり,本会の功績賞を贈呈するにふさわしい方であると確信致します.

区切


宮本 裕

宮 本  裕

推 薦 の 辞

 宮本 裕君は,1986年に早稲田大学理工学部を卒業後,1988年に同大学院修士課程を修了され,同年,日本電信電話株式会社伝送システム研究所に入所されました.2001年に同未来ねっと研究所主幹研究員,2003年に同未来ねっと研究所主幹研究員/グループリーダ,2009年に同未来ねっと研究所特別研究員,2011年には同未来ねっと研究所上席特別研究員となり,現在は同未来ねっと研究所上席特別研究員並びにイノベイティブフォトニックネットワークセンタ長として活躍されております.

 同君は長年にわたり光ネットワークにおける高速大容量光伝送方式基盤技術の研究に従事し,多くの業績を挙げてこられました.特に,情報通信インフラの基幹光ネットワークの大容量化・長距離化を実現するコヒーレントマルチキャリヤ多値変復調方式の研究において顕著な業績を挙げられました.

 従来の光通信システムでは,1波長当りの高速化を図るために,一つの搬送波を用いて,送信するディジタル信号に応じて光の強度をオンオフ変調する2値強度変調により高速化を行ってきました.この方式では光の周波数・位相情報を受信過程で用いることができないため,光ファイバ中で生じる波形ひずみの補償が困難であり1波長当り10Gbit/s以上の領域では,伝送距離,光の周波数利用効率及び伝送容量が制限されていました.同君は,位相同期し互いに干渉し合うコヒーレントな複数の搬送波を用いて長距離光伝送を行うコヒーレントマルチキャリヤ多値変復調方式を提案し,特に送信光パルスの繰返し周波数に一致した周波数間隔で搬送波を配置することで,1波長当り100Gbit/s以上の高速化と長距離伝送を先駆的に実証しました.1波長当り100Gbit/sの超高速光伝送において,コヒーレントマルチキャリヤ多値変調を採用することにより,従来方式の伝送距離制限を克服し,従来比100倍以上となる1万km以上の長距離波長多重伝送を世界で初めて実証しました.更に,1波長当り100Gbit/sを超える超高速チャネル伝送においては,30倍以上の周波数利用効率の向上を実現し,1本の光ファイバで従来(0.8Tbit/s)から二桁の増大に迫る70Tbit/sの大容量伝送を可能としました.これら高速大容量光伝送技術は,情報化社会の強固な社会インフラ基盤の持続的な発展を支えるとともに,国際的競争力を持つ技術分野であり産業界への貢献も多大であります.同君が,提案方式により光ファイバ1本当りの容量限界を先駆的に実験実証することで,ディジタルコヒーレント方式の高度化を促し,新分野である空間分割多重光伝送方式の開拓を加速化されました.

 同君は上記の業績により,前島密賞,文部科学大臣表彰等を授与されております.また,数多くの実験実証を通し同分野の技術トレンドをけん引しているほか,国際会議のプログラム委員,チェアを歴任しこの分野の発展に尽力しております.更に2013年からはNTTイノベイティブフォトニックネットワークセンタ長として,先進的な光伝送技術/ネットワーキング技術に関わる基盤研究をけん引し,世界をリードする成果を創出し続けております.また本会においては,同君は研究専門委員会委員長,編集理事を歴任されるなど,本会の発展にも貢献されました.

 以上のように,同君の情報通信分野における功績は極めて顕著であり,本会の功績賞を贈るにふさわしい方であると確信致します.

区切


守倉正博

守 倉 正 博

推 薦 の 辞

 守倉正博君は,1979年に京都大学工学部電気工学第二学科を卒業の後,1981年に同大学院修士課程を修了され,同年,日本電信電話公社(現日本電信電話株式会社)横須賀電気通信研究所に入所されました.1997年に同無線システム研究所主幹研究員,2005年に同情報流通基盤総合研究所企画部・企画部長を経て,2007年からは京都大学大学院情報学研究科教授として活躍されておられます.

 同君は長年にわたり無線通信工学の研究や教育に努め,多くの業績を挙げてこられました.特に無線LANシステムにおけるOFDM方式の研究開発と,国内外の標準規格策定に大きく貢献されました.OFDM方式を,無線LANに必須なパケットモードに適用するという独創的な技術である「パケットモードOFDM方式」を構想し,優れた無線伝送の実用化に成功され,その後の無線通信工学に多大な貢献をされました.

 パケットモードOFDM方式では,従来困難であった受信パケット情報だけで復調を可能にする伝送技術や高精度な復調技術を考案しています.この考案技術を適用した「OFDM無線LANシステム」を開発し,世界に先駆けてパケットモードOFDM方式による高速データ伝送に成功しています.提案した方式により,1997年当時2Mbit/sであった伝送速度を一桁以上高速な54Mbit/sに引き上げ,同時期に開発された11Mbit/sのIEEE 802.11b規格と比べて動画像伝送等の真のマルチメディア伝送が可能となりました.

 同君は,OFDM無線LANシステムの実用化,国際標準化にあたり,チームリーダとして研究開発方針の立案,遂行から,OFDM無線LANシステムの試作,商用機開発の陣頭指揮,IEEE 802.11a規格の国際標準化,世界初のIEEE 802.11a規格に基づいた無線LANシステム相互接続実証実験の実現,国内初の公衆無線LANを用いたホットスポットサービスの商用化まで全てを実現されています.また,併せて,国内の標準化でも郵政省・電気通信技術審議会や,その後の総務省・情報通信審議会の作業班主査として5GHz帯の周波数を利用する際の技術基準の策定にも大きく貢献されました.

 更に,同君が貢献したパケットモードOFDM方式は,その後のWiMAX,UWB,LTE/LTE-A等の無線アクセス方式が全てOFDM方式に基づいていることからも,無線通信分野の実用化にも多大な影響を与えています.

 同君は京都大学においても無線通信分野の更なる発展に尽力され,特に,無線LAN技術を中心とする研究指導や人材育成,更には,各政府機関での行政施策に貢献しており,教育と研究のみならず無線政策,行政に対しても精力的に推進されております.

 同君はこれらの功績により,IEEEからIEEE 802.11 WG功労者表彰,本会からフェローの称号を授与されるとともに,紫綬褒章,前島密賞,文部科学大臣賞,総務大臣賞,本会業績賞など数多くの表彰を受けられています.また本会においては出版委員会幹事,会計理事,通信ソサイエティ会長を歴任されるなど,本分野の発展にも貢献されました.

 以上のように,同君の情報通信分野における功績は極めて顕著であり,本会の功績賞を贈るにふさわしい方であると確信致します.

区切


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