解説 切手サイズライダの実現に向けて

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解説

切手サイズライダの実現に向けて

Toward the Realization of Stamp-size LiDAR

馬場俊彦

馬場俊彦 正員 横浜国立大学大学院工学研究院知的構造の創生部門

Toshihiko BABA, Member (Faculty of Engineering, Yokohama National University, Yokohama-shi, 240-8501 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.102 No.7 pp.649-653 2019年7月

©電子情報通信学会2019

abstract

 自動運転やロボット・ドローンの話題とともに,周囲環境の三次元情報を取得するセンサであるライダが注目を浴びている.しかし従来のライダはメカ式の光偏向器を利用する等の理由から,大形,高コストであり,幅広い応用は困難と考えられる.そこで最近,フラッシュ方式,光フェーズドアレー方式,スローライト方式など,非メカ式のライダが活発に研究開発されている.本稿ではライダの方式,性能と原理的な制約,ライダを構成する各要素への要求などを解説し,非メカ式による切手サイズライダを実現するためのチャレンジを紹介する.

キーワード:ライダ,シリコンフォトニクス,光フェーズドアレー,スローライト

1.は じ め に

 ライダ(LiDAR: Light Detection and Ranging)は,測距を行うための光送受信機と光ビームを走査するための光偏向器を組み合わせて,周囲環境を三次元映像化するセンサ装置であり,光レーダとも呼ばれる.ミリ波帯のレーダと同様に,測距の原理として,光パルスの往復時間を計測する飛行時間(TOF: Time of Flight)方式,信号光と参照光の間のビート周波数から測距する周波数変調連続波(FM-CW: Frequency Modulation Continuous Wave)方式などがある(1).ミリ波を光波に替えて解像度を上げ,物体認識を可能にする点が大きな特長である.

 近年,自動車の運転支援や自動運転の話題とともに,その開発が世界的な注目を集めている(2)(4).しかし現行のライダは大形で高価なため,そのままで車載部品として普及させるのは容易ではない.もし性能を維持しつつ,小形で廉価なライダが実現されれば,この状況を打破できるほか,ロボットやドローン,セキュリティ監視,三次元地図作成,建造物の測量,更には記録,認証,仮想現実,エンターテイメントなどのツールとして幅広く利用されると期待されている.

 本稿ではライダの性能や制約を概観するとともに,シリコン(Si)フォトニクス,光フェーズドアレー,スローライトなど,近年,開発が活発な新しい技術による切手サイズライダの試みを紹介する.

2.ライダの性能と制約

 ここでは,ライダの特徴,競合技術との関係,性能項目と原理的な制約,車載等へ応用する上での要求などをまとめる.それらは相互に関連しており,一部,トレードオフの関係にあることを述べる.

 (1)観測できる距離

 ライダは光を物体に向けて送信し,反射戻り光を受信して,その時間や周波数の情報から測距を行う.車載に注目すると,高速走行時を想定して100~200mまでの対応が求められる.遠方の測距では,既にミリ波レーダが搭載されているが,物体認識までが必要となると,依然としてライダが必須となる.数m以内の近距離については,複眼カメラなどと競合するが,二次元画像からの推測ではなく距離を実測する安心安全という点でライダはやはり重要である.


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