解説 バーチャルYouTuberの提供価値の分析

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Vol.102 No.7 (2019/7) 目次へ

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解説

バーチャルYouTuberの提供価値の分析

An Analysis of the Value of Virtual YouTubers

横田健治

横田健治 正員 (株)KDDI総合研究所フューチャーデザイン1部門

Kenji YOKOTA, Member (Future Design Division 1, KDDI Research, Inc., Tokyo, 102-8460 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.102 No.7 pp.654-659 2019年7月

©電子情報通信学会2019

abstract

 最近,バーチャルYouTuberと呼ばれる,YouTubeなどの動画像サイト上でタレント活動をするCGのキャラクタが盛り上がりを見せている.バーチャルYouTuberが出演する動画像では,モーションキャプチャ技術により演者の動きをキャラクタに反映させているため,アニメに比べて短期間かつ低コストでキャラクタの動画像を作ることができる.本稿は,バーチャルYouTuberの提供価値を明らかにすることを目的とし,バーチャルYouTuberを頻繁に視聴する20歳から39歳の男女に実施したグループインタビュー調査の結果を紹介する.

キーワード:バーチャルYouTuber,VTuber,モーションキャプチャ

1.ま え が き

1.1 バーチャルYouTuberとは

 最近,バーチャルYouTuber(VTuber,バーチャルライバー,バーチャルタレントとも呼ばれる)が急激な盛り上がりを見せており,バーチャルYouTuberの人数は2018年1月末の181人から,2018年7月末には4,475人に急拡大した(1).2018年12月末時点では,人気トップのキズナアイは,チャネル登録者数(ファン数)が239万人,動画像の総再生回数が1.8億回に達している(2)図1にキズナアイの外観を示す.

図1 キズナアイの外観(3)

 バーチャルYouTuberとは,YouTubeなどの動画像サイト上で,タレント活動をするキャラクタのことを指す言葉である.CGにより作成されたキャラクタに,演者が動きと声を当てることで,あたかもキャラクタが生きているように見せることができる.

 バーチャルYouTuberは,プレーヤが実況しながらゲームをプレイする「ゲーム実況」,既存の曲を自らの肉声で歌った「歌ってみた」,自己紹介や自分の意見の主張を行う「自己紹介」,日常の話題や視聴者からのメッセージを紹介する「雑談」など,様々なジャンルの動画像を配信している.このように,バーチャルYouTuberの動画像は娯楽を目的としたものが多い.バーチャルYouTuberと登場人物が存在する既存の娯楽メディアを,登場人物と企画内容という二つの観点で分類した結果を表1に示す.バーチャルYouTuberは,アニメやゲームと同じように架空のキャラクタが登場するが,アニメやゲームはシナリオに沿った内容が提供されることに対し,その場でのアドリブによる演出が多いことが異なる.また,バーチャルYouTuberでは,動画像内のコメントやTwitter上で質問・要望を受け付けて次回以降の動画像に反映させたり,ライブ配信中に投稿されたコメントにキャラクタがリアルタイムで反応したりすることが行われている.更に,YouTube上での活動にとどまらず,TV出演やライブイベントを開催するキャラクタも存在する.

表1 登場人物が存在する娯楽メディアの分類

1.2 バーチャルYouTuberに関する技術

 バーチャルYouTuberが演じるキャラクタは,3Dモデルの場合と2Dモデルの場合がある.3Dモデルを利用する場合,キャラクタが三次元空間内を自由に動いたり,カメラアングルを任意に設定できたりといったコンテンツ作成の自由度が高くなる.2Dモデルを利用する場合は,手足は動かせず表情のみを変化させることができるという制約があるが,3Dモデルに比べて安価かつ手軽に動画像を作成できる.

 3Dモデルでは,演者の動作をリアルタイムにキャラクタに反映させるため,モーションキャプチャの技術が使われている.モーションキャプチャのための装置として,「PERCEPTION NEURON」や「VIVEトラッカー」が存在する.これらの装置の登場により,以前までは必要であった専用スタジオ,複数カメラ,ボディスーツなどが不要となり,モーションキャプチャが安価かつ手軽にできるようになった.モーションキャプチャを利用することで,アニメ制作に比べて短期間かつ低コストでキャラクタが動く動画像を作ることができる.

 3Dモデルと2Dモデルのどちらの場合でも,キャラクタの表情を変化させるために,カメラで撮影した演者の表情を認識し,キャラクタにシンクロさせる技術が使われている.表情のシンクロのためのツールとして,「FaceRig」が存在する.また,特殊な表情をさせたい場合などは,演者がボタンを押すことでその表情に切り替えたり,動画像編集時に特殊な表情を後付けしたりすることも行われている.図2に,モーションキャプチャと表情認識を利用したバーチャルYouTuberの制作風景を示す.

図2 バーチャルYouTuberの制作風景(4)

 キャラクタの音声については,演者の声をそのまま反映させることが多い.ただし,男性が女性キャラクタを演じるときなどは,「恋声」等の音声変換ソフトウェアを使う場合や,「ゆかりねっと」等の音声認識ソフトウェアと「VOICELOID」等の音声合成ソフトウェアを組み合わせて使う場合もある.

1.3 バーチャルYouTuberの歴史

 2016年12月にキズナアイが動画像投稿を始め,世界で初めてバーチャルYouTuberを自称したことがその歴史の始まりである.キズナアイが動画像投稿を始める前にも,キャラクタが動画像サイト上で活動することは行われていたが,非常にマイナーな存在であり,バーチャルYouTuberというジャンルを確立するには至っていなかった.

 バーチャルYouTuberが流行し始めたのは2017年12月に入ってからである.ニコニコ動画のランキング上位をバーチャルYouTuberの動画像が占め,多くの人がバーチャルYouTuberという存在を知ることになった.また,この時期にバーチャルYouTuber四天王として,キズナアイ,輝夜月(カグヤルナ),ミライアカリ,電脳少女シロ,バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん(ねこます),の5人(5人だが四天王と呼ぶ)が話題となった.

 2018年1月以降,バーチャルYouTuberの人数が急激に増えてきた.2018年2月には,キャラクタになりきってライブ配信を行う,バーチャルライバーのグループ「にじさんじ」の1期生が登場し,月ノ美兎(ツキノミト)が有名となった.にじさんじは,それまで主流だった3Dモデルのキャラクタの動画像を投稿するスタイルとは異なり,2Dモデルのキャラクタがライブ配信を行うというスタイルを確立した.

 2018年8月には,輝夜月が世界初の商用VRライブを実施した.このライブは,「cluster」というVR空間に人が集まることができるバーチャルイベントサービスを利用して実施された.ライブの参加者は,「HTC VIVE」や「Oculus Rift」といったヘッドマウントディスプレイを利用することで,仮想空間に構築されたライブ会場に没入することができる.

1.4 調査の目的

 バーチャルYouTuberが急速に流行した理由は,YouTuber,アニメ,アイドルといった従来のサービスにない,何らかの価値を提供していると考えられる.そこで,バーチャルYouTuberを頻繁に視聴する人を対象に,バーチャルYouTuberの魅力と視聴実態を把握する調査を実施し,バーチャルYouTuberの提供価値を明らかにする.

2.アンケート調査結果

2.1 調査概要

 インタビュー対象者抽出のための予備調査として,バーチャルYouTuber視聴に関するアンケート調査を実施した.

調査手法:インターネット調査

年齢:20~39歳

居住地:東京都,埼玉県,千葉県,神奈川県

有効回答数:18,506人

調査期間:2018年7月20~31日

2.2 バーチャルYouTuberの認知と視聴経験

 バーチャルYouTuberの認知と視聴経験を聴取した結果を図3に示す.バーチャルYouTuberの認知率と視聴経験率は,同年代の男女で比較すると男性の方が高く,年齢で比較すると若いほど高い.

図3 バーチャルYouTuberの認知率と視聴経験率

2.3 バーチャルYouTuberに対する行動

 バーチャルYouTuberを「習慣的に見ている」,「見たことはあるが,習慣的に見るにはいたっていない」と回答した男女に,バーチャルYouTuberに対する各行動の経験を聴取した結果を図4に示す.男性と女性を比較すると,男性の方が各行動の経験率が高い.

図4 バーチャルYouTuberに対する各行動の経験

3.インタビュー調査結果

3.1 調査概要

 アンケート調査において,バーチャルYouTuberの視聴頻度が「2週間に1回以上」と回答し,バーチャルYouTuberの魅力についての5段階評価で,「魅力を感じている」または「やや魅力を感じている」と回答した人から,インタビュー調査の対象者を22人抽出した.

調査手法:グループインタビュー調査

年齢:20~39歳

居住地:東京都,埼玉県,千葉県,神奈川県

対象者数:男性16人,女性6人

調査期間:2018年8月3~5日

3.2 調査対象グループ

 アンケート調査の結果から,バーチャルYouTuberの視聴経験率は男性の方が高いため,男性3グループ,女性1グループのインタビューを実施した.各グループの特徴の違いを表2に示す.表2では,各グループにおけるバーチャルYouTuberの視聴頻度,1日当りの視聴時間,視聴したバーチャルYouTuberの数,図4に示すバーチャルYouTuberに対する12の行動のうち実際に行動したことのある数について,それぞれ中央値を記載している.男性は,バーチャルYouTuberの視聴頻度や,バーチャルYouTuberに対する行動数に応じて3グループに分けた.

表2 調査対象グループの特徴

3.3 インタビューにおける質問と回答

 バーチャルYouTuberを頻繁に視聴する男女の各グループへのインタビューにおいて,対象者に聞いた主な質問とその回答を表3に示す.対象者へのインタビューの中で,バーチャルYouTuberと似ているものとして,YouTuber,アニメ,アイドルが例として挙がった.対象者は,これらとバーチャルYouTuberの違いを説明できており,バーチャルYouTuberは独自のポジションを確立していることが分かった.

表3 インタビュー対象者に聞いた主な質問と回答

3.4 バーチャルYouTuberの認知と視聴経験

 表3に示すインタビュー結果から,バーチャルYouTuberの提供価値をまとめた結果を図5に示す.バーチャルYouTuberの価値は,自分の都合に応じて視聴できること,自分の安心できる世界観の中に浸ることができること,共感や自己肯定感を感じることができること,の3点にまとめられる.

図5 バーチャルYouTuberの提供価値

3.5 バーチャルYouTuberの認知と視聴経験

 バーチャルYouTuberに関する各グループの発言において,グループ間の相違が見られたものを表4に示す.男性①グループは,「何回も繰り返し見る」「コメントで応援する」「掲示板で語り合う」といった発言があるように,バーチャルYouTuberに対して積極的かつ能動的な関与行動が見られ,「生きがい」と言える存在になっていた.一方,男性③グループは,「コメントをするメリットを感じない」,「オタクとして見られたくない」といった発言があるように,バーチャルYouTuberに対して深く関与しておらず,「暇つぶし」としか捉えていないことが分かった.

表4 各グループの発言で相違が見られたもの

 女性グループのバーチャルYouTuberへの関与度合いは,「視聴の仕方」,「コメント」,「周囲との情報交換」の質問に対して,男性③グループと同じような回答をしており,同程度の関与度合いと言える.しかし,「どのような存在か」という問いに対しては,「自分の友達のような存在」,「自分のなりたい姿」と男性の各グループとは異なる捉え方が見られる点が特徴的である.

4.ま  と  め

 本調査結果から,バーチャルYouTuberの提供価値は,次の三つにまとめられる.

自分の都合に応じて視聴できること.

自分の安心できる世界観の中に浸ることができること.

共感や自己肯定感を感じることができること.

 インタビュー対象者にとっては,バーチャルYouTuberの比較対象として名前が挙がったYouTuber,アニメ,アイドルでは,上記の三つの価値を同時に満たすことができていなかった可能性が高い.一方,バーチャルYouTuberは,実在の人物に比べてキャラクタ設定の自由度が高く,従来のサービスとは異なる世界観を作り出しており,上記三つの価値を同時に満たしやすいと推察される.そのため,バーチャルYouTuberは一時的な流行ではなく,一つの新たなジャンルとして今後定着していくものと思われる.

文     献

(1) ユーザーローカル,“バーチャルYouTuberの市場成長に関する分析調査,”
http://www.userlocal.jp/news/20180806vc/

(2) ユーザーローカル,“バーチャルYouTuberランキング,”
https://virtual-youtuber.userlocal.jp/

(3) YouTube, “【自己紹介】はじめまして! キズナアイです ლ(´ڡ`ლ),”
https://www.youtube.com/watch?v=NasyGUeNMTs

(4) YouTube, “バーチャルYouTuberの作り方大公開! 3Dモーションキャプチャーが凄い……!【よきゅCH】,”
https://www.youtube.com/watch?v=TgDcozEjj90

(2019年1月22日受付)

横田健治

(よこ)() (けん)()(正員)

 平20京大・工・電気電子卒.平24同大学院情報学研究科博士課程了.同年KDDI株式会社入社.平25~27(株)KDDI研究所にて情報指向ネットワークに関する研究に従事.平28(株)KDDI総合研究所アナリスト.以来,コンテンツ業界,コンテンツ利用者に関する調査に従事.


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