解説 AIによる通信ネットワーク自律制御化に向けた研究動向――AIでのQoE-centricオペレーション実現に向けて――

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解説

AIによる通信ネットワーク自律制御化に向けた研究動向

――AIでのQoE-centricオペレーション実現に向けて――

Autonomous Control of Communication Network by AI: Toward Realization of QoE-centric Operation by AI

西松 研 岡本 淳

西松 研 正員 日本電信電話株式会社NTTネットワーク基盤技術研究所

岡本 淳 正員 日本電信電話株式会社NTTネットワーク基盤技術研究所

Ken NISHIMATSU and Jun OKAMOTO, Members (NTT Network Technology Laboratories, NIPPON TELEGRAPH AND TELEPHONE CORPORATION, Musashino-shi, 180-8585 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.102 No.8 pp.815-821 2019年8月

©電子情報通信学会2019

abstract

 仮想化技術の進展により,通信ネットワークを必要なときに必要なだけ,オンデマンドに利用可能な世界が現実となりつつある.これらの動向を踏まえ,ユーザのサービス体感品質(QoE)を把握し,ふくそうや故障等によりQoEへの影響が顕在化する前,若しくは,QoE劣化の早期段階で,ネットワークを柔軟に制御することで,QoEに関する要件を満たし続けるオペレーションが可能となるが,人手での運用には限界がある.そのため,AIが自ら必要な情報を収集し,必要な措置を判断するネットワークの自律制御化が望まれる.本稿では,制御指標としてのQoE定量化,及び,QoEに基づく通信ネットワークの自律制御化に向けた研究動向について解説する.

キーワード:ネットワークオペレーション,自律制御,AI,QoE,仮想化

1.は じ め に

 通信ネットワークの社会インフラ化が進む中で,通信キャリヤのビジネスモデルは,キャリヤが,直接,顧客や企業にサービスを提供するB2X型から,パートナと連携し,サービス提供者(図1の中央のB)のビジネスをサポートするB2B2X型にシフトしてきている.インターネットで提供するサービスのユーザ体感品質(QoE: Quality of Experience)がブランド・売上げなど経営指標に影響しているという報告がされており(1)(3),B2B2Xを志向するにあたり,顧客に適切なQoEでサービスを提供できることがサービス提供者に選ばれる上でのキーとなる.

図1 B2B2X 形のビジネスモデル

 近年の仮想化技術の進展により,クラウドだけでなく,通信ネットワークも顧客のニーズや需要変化に応じて,必要なときに必要な期間,必要な機能やリソースをユーザが柔軟に利用可能な時代も近づきつつある(4).一方で,仮想化されたネットワークでは,物理的な設備と仮想的なネットワーク空間のマッピングが必要であり,管理が複雑になることが予想される.更に,サービスの多様化やパーソナライズ化により管理条件も複雑化しているため,ネットワークオペレータが過去の経験等に基づき,必要な情報を収集,判断することを前提とした運用には限界がある.そこで,ネットワークから得られるデータから個々のユーザのQoEを把握し,適切に管理する検討が行われている(5).また,ネットワークから収集された情報から,人を介在させずに,AIが必要な措置を判断,実行する自律制御ループがホットな研究トピックとなっている(6)(9)

 本稿では,AIを活用することで,サービス事業者がビジネスを展開していく上で,重要な指標となるQoEに基づき,ネットワークの自律制御化を目指した研究動向について解説する.


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