解説 光時分割多重(OTDM)研究が創出した最先端光技術とその将来展望

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解説

光時分割多重(OTDM)研究が創出した最先端光技術とその将来展望

Advanced Photonic Technology for the Research of Optical Time-Division Multiplexing and Its Future Prospects

中沢正隆

中沢正隆 名誉員:フェロー 東北大学電気通信研究機構

Masataka NAKAZAWA, Fellow, Honorary Member (Research Organization of Electrical Communication, Tohoku University, Sendai-shi, 980-8577 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.102 No.8 pp.809-814 2019年8月

©電子情報通信学会2019

abstract

 通信の多重化方式にはTDMとFDM(若しくはWDM)がある.光通信の急速な大容量化はEDFAとWDMに負うところが大きいが,TDMはどうであろうか.電子デバイスの限界を超えて動作するOTDMはWDMに比べて高度な新技術が要求されるため,今のところ実用性には乏しい技術である.しかし,最近ではコヒーレントナイキストパルスという技術により1チャネル当り7.7Tbit/s,周波数利用効率が9.7bit/(s・Hz)のような優れた報告がされている.本稿では1989年代から今日に至るOTDM研究に焦点を当て,WDM技術と比較するとともに,その将来を展望する.

キーワード:OTDM,WDM,ディジタルコヒーレント,周波数利用効率,ナイキストパルス

1.は じ め に

 本稿を最初に依頼されたときの題目は“OTDM研究が残したもの”であった.確かに,波長分割多重技術(WDM: Wavelength Division Multiplexing)(1),(2)によって最近はテラビット伝送が当たり前になり,光時分割多重(OTDM: Optical Time-Division Multiplexing)技術(3)(5)は消え去ったのではないかと思っている方も多いと思う.しかし,OTDM技術の研究は今も脈々と続けられており,最近では1チャネル当り7.7Tbit/sの世界最高の伝送速度でかつその周波数利用効率も10bit/(s・Hz)に近いものが得られている(6).このようなOTDM技術には最先端の超高速コヒーレント光パルス伝送技術が使われており,そのパルスには64QAMのような位相情報を載せている.

 光通信の実用化はETDM(Electrical Time-Division Multiplexing)から始まりEDFA(Erbium-doped Fiber Amplifier)(7),(8)+WDM更にはディジタルコヒーレント+WDMと進んできており,安価に大容量伝送が実現されている.一方,最先端の光パルス技術を駆使するOTDM技術は複雑でかつ高価であり,システムの実用化という点ではWDMの後じんを拝する.しかし,OTDM技術は10~40GHz帯パルスレーザ,超高速光スイッチ,光ファイバの高次分散補償,ソリトン伝送など多くの分野で発展してきており,基盤技術として光通信への貢献は極めて大きいものがある(5).そこで本稿ではOTDM技術がどのような道をたどってきたのかを概観し,その将来を考えてみたい.

2.OTDMの歴史とその特徴

 1980年代光通信の情報のコーディングには,コンピュータとの親和性が高くかつ帯域が少なくて済むNRZ(Non-Return-to-Zero)電気信号やパルス的なRZ(Return-to-Zero)電気信号が使われていた.その頃はまだEDFAは発明されていない.したがって,高速化を行うためにはETDMが基本となり電気段での多重化が行われ,電子デバイスの最高速が光伝送の最高速度を決めていた.また,この頃は無線通信におけるFDM(Frequency-Division Multiplexing),QAM(Quadrature Amplitude Modulation),OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)などの技術は光通信には導入されていなかった.


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