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解説
フォトニックトポロジー
――グラフェンと電磁波の邂逅――
Photonic Topology: Graphene Meeting Electromagnetic Wave
abstract
2016年にノーベル物理学賞が物質のトポロジカル状態に関する先駆的な研究業績を上げた3博士に与えられたことが記憶に新しい.電子系トポロジーの研究が既に物性物理や関連物質科学の最先端になっている.ここ数年,フォトニックトポロジーも注目されるようになり,フォトニクス機能創成の新しい方向として期待されている.本稿はトポロジカル物性研究の歴史を振り返ってから,蜂の巣型LC回路を具体例にとり,フォトニックトポロジー発現の基本原理を説明する.また,その実装として高周波導波路の一つであるマイクロストリップにおけるトポロジカル電磁特性の創出と実験観測を紹介する.
キーワード:LC回路,マイクロストリップ,蜂の巣格子,ディラック型分散関係,トポロジカル電磁特性
2016年にトポロジカル相転移及び物質のトポロジカル状態に関する先駆的な理論研究を行ったThouless博士,Haldane博士,Kosterlitz博士がノーベル物理学賞に輝いた.電子系トポロジーの研究が既に物性物理や関連物質科学の最先端になっている.新たな物質観に基づくトポロジカル材料科学の形成,新規トポロジカル物質群の開発及びそれを応用した革新的デバイス創出が期待されている.
トポロジーは元々数学の概念であり,その研究の歴史は19世紀に遡る.ガウス・ボーネットの定理が特に有名である.それによれば,物体の曲面に沿った曲率の積分はの整数倍であり,その整数の値は物体が囲んでいる空孔の数で与えられる.例えば,ドーナツとコーヒーカップにそれぞれ1個の空孔が含まれているので,積分値が同じ整数になる.ボールとバナナは空孔を含まないのでそれとは別の積分値を持つ.これら直感でも分かる事柄を精密化して,研究する数学分野はトポロジー幾何学である.空孔の数はトポロジカル指数と呼ばれ,ものを分類する指標の一つになっている.
トポロジーが物理の分野に頭角を現したのは20世紀,1980年代である.1980年代初頭,von Klitzing博士が半導体界面にできた二次元電子系に強い垂直磁界を印加した場合,ホール抵抗が量子化され,オーム抵抗がゼロになる量子ホール効果を発見した(1).間もなく,この現象が二次元電子系の縁にできた電子のエッジチャネルによるもので,そのエッジチャネルの数が電子波動関数の波数空間におけるBerry曲率(2)の積分によって得られるチャーン数(用語)になっていることが解明された(3).理論的定式化を行った4人の研究者の頭文字をとって,TKNN理論と呼ばれている.興味深いことに,TKNN理論におけるエッジチャネルの計算式とガウス・ボーネットの公式が同じ構造を持っている.このため,量子ホール効果の本質が電子波動関数の波数空間におけるトポロジーであることが広く認識されるようになった.ちなみに,頭文字TはThouless博士のことであり,頭文字Kは日本人研究者甲元真人博士のことである.甲元氏は物性物理におけるトポロジーの導入の研究業績が高く評価され,2017年に仁科賞と朝日賞を受賞している.
1980年代後半になって,Haldane博士が蜂の巣格子サイト間のホッピング係数に時間反転対称を破る特殊な量子位相が付随していれば,外部磁界の印加がなくても,有限なチャーン数を持つ電子状態が作り出せることを理論的に示した(4).電子のバンド構造に基づいた量子異常ホール効果に関する理論予言は,発表当初余り注目されていなかった.電子ホッピング係数にある量子位相が実現的なものではないと思われていた.
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