学会における不易流行

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Vol.103 No.1 (2020/1) 目次へ

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巻頭言

学会における不易流行 Fueki-Ryuukou in Academic Societies会長 中沢正隆

 私の好きな言葉に松尾芭蕉の「不易流行」がある.俳句は絶対に変わらないものと(不易),時代とともに変わりその最先端を追うもの(流行)とから成るということであるが,これは「連携」あるいは「融合」にも通ずるものがあると思う.すなわち,自らの軸足をきちんとしながら新たな分野を取り入れて最先端の技術(俳句)を作り上げていくことであり,全ての組織運営にも通ずる普遍的な考え方であろう.

 例えば最近,企業連携あるいは大学連携という言葉をよく聞く.実際に大手の企業が合併したり,新たな分野を目指して連携する話は多い.大学もOne umbrellaの下,近い地域でお互いにメリットを見いだして,今までにはなかった形の大学運営により教育と研究を革新していこうとしている.また,研究においても,異なる学問分野にまたがる研究領域として学際(Interdisciplinary)あるいは文理融合という言葉をよく聞く.自分たちだけの研究分野にとどまっていては,あるところまではよいがその後の発展は難しい.更に研究を発展させていくためには,新分野との連携や融合が重要ということである.そして最近の産業界も多くの異なった分野の技術を組み合わせて発展しているように,学会もお互い合併したり新たに連携しようとする機運が高まっている.

 しかし重要なのは,「連携」の先にあるはずの新たなものを本当に見いだせるかであり,この創出のための真剣な努力が必要である.そして願わくは,その連携の先に日本の将来ビジョンが描かれていることを期待したい.Society 5.0の実現に向けた省庁間の「連携」を例にとると,それは正しく日本の将来ビジョンを具現化するための原動力であり,連携が日本の将来ビジョンを支える一丁目一番地であろう.

 日本は1980年代世界的な産業発展を遂げ先進国となった.当時は「連携」という言葉は余り聞かれず,むしろ自らの力で発展してきたように思う.しかし,今日では産業競争力は他国に後れを取ることも多くなっており,情報通信分野ではトップテンに入る日本の企業も少なくなっている.最近聞くようになった「連携」はこの危機感の表れであるとも言える.私にはOpen InnovationやDiversityというような言葉も同じように響く.通常,右肩下がりの組織と右肩下がりの組織が単に一緒になっても,右肩上がりになるわけではない.重要なのは,自らが今までに磨いてきた技術と他組織で持っている優れた技術を連携あるいは融合して,どのくらい新たな技術を生み出すことができるのか,KPI(Key Performance Indicator)を決めて真剣に進めていけるか,ということである.単独では到底できなかった新たな価値を見いだせれば連携が成功したことになろう.

 学会の存在意義はもちろん学術の発展であるが,それと同時に多様化する産業界とアカデミアを強く連携させ,日本の将来ビジョンの基盤を支えていくという重要な役目がある.昔は企業研究者とアカデミアの人の時間の進み方が比較的近かったが,今は両者の仕事に対するスピードに差が出てきている.しかしそれらをつなぐのは学会である.その意味で学会は時代とともにその姿を臨機応変に変えながら発展していくこと(不易流行)が求められている.そして,その接着剤効果が日本の発展のための原動力になることを願う.

 具体的な学会連携に関しては,例えば,自動運転には機械系の車の技術,情報通信系のソフトウェア技術の融合が重要であり,日本機械学会と本会との連携が始まっている.また,電気系のエネルギーのネットワークを情報通信網で効率良く制御し,レジリエンスの高いインフラを作る意味でも電気学会と本会との連携も始まろうとしている.これらはSociety 5.0の中核となる分野であり,「学会の様々な連携がSociety 5.0の実現を加速させていますね.」と,言われるようにしたいものである.


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