巻頭言 もっと教育的に条件付き採録を!もっと光が来るように

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Vol.103 No.10 (2020/10) 目次へ

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巻頭言

もっと教育的に条件付き採録を!もっと光が来るように More Educational Conditional Acceptance!So That More Light Comes in北陸支部長 菊島浩二

【会員の皆様,論文の査読を依頼されたときには,リジェクトするよりも,もっと教育的に条件付き採録にして下さい.】

 私が若い頃には,全国大会で発表して,頂いた質問・コメントを反映させて論文投稿すると,条件付き採録になり,出版されました.

 しかし,ここ10数年,予算の削減が厳しく,大会への出張・発表が困難になり,質問・コメントを頂く機会を失いました.大会の発表なく,突然の論文投稿では,内容が精査できず,その結果,リジェクトされます.リジェクトされれば,自然と,他の学会に投稿します.これが,電子情報通信学会の会員数の減少につながります.

 条件付き採録であれば,会員の研究活動も方向性が見えて活性化されます.

 私の知る限り,会社の後輩,学生たちは,皆,学会発表のために学会に自費で入会します.それ以外は皆無です.海外からも含め,若い方々の論文投稿に対して,もっと教育的に条件付き採録にして下さい.

 IF(インパクトファクター)の向上を目的として,査読を厳しくしたいという意図は理解できますが,間違っています.

 欧米の論文誌が扱っていない研究テーマのとき,「こんな論文,読む人がいない.読む人がいなければIFは向上しない.」との理由でのリジェクト.それは,間違いです.どんな画期的な技術も,初めは,理解されず,相手にされないものです.

 「こんな技術,誰もやっていない.誰も取り組んでいない.自分が出席している研究会では扱ったことのないテーマだ.だから読者は興味を持たない.」との理由でリジェクト,それも間違いです.

 「難し過ぎる技術で,本当に実験は正しいのか.嘘に違いない.」との理由で,リジェクト.間違いです.

 私の論文から普及した技術の1件目では,査読者から,「分からない」と言われました.それでも,査読者に丁寧に説明して,条件付き採録となり出版されました.しかし,多くの方々から,「こんな技術は現実的ではない.役に立たない.」と言われました.2件目の条件付き採録で出版された技術では,「本当にできたのか」と驚かれ,国内外から研究室に多くの見学があり,また,国内外の展示会にも出展し,多くの方々に御覧頂きました.3件目の条件付き採録で出版された技術では,「誰もこんなことをやっていない.今,はやりの技術ではない.こんな技術は難し過ぎる.実用化に向いていない.」と言われました.

 1件目の技術は光通信システムの統計的設計法で,現在,国際標準(ITU-T G-series supplement 39)に採用されています.2件目はAMアナログテレビ映像とディジタルテレビ映像のサブキャリヤ多重CATV信号を光増幅する技術で,国際標準(ITU-T J.186)になり普及しました.3件目はFM一括変換で,国際標準(ITU-T J.185)になり,現在,236万世帯を超えるほどに普及しました.いずれも,論文の出版から技術の普及まで,15~18年かかりました.

 私は,条件付き採録でのコメントを通じて,学会から多くのことを学びました.リジェクトされていたら,学ぶ機会を失い,学会を辞めていたことでしょう.

 会員の皆様,論文の査読を依頼されたら,できる限りリジェクトしないで,海外からも含め,若い方々の論文投稿に対して,もっと教育的に条件付き採録にして下さい.

 このことが,学会に学びの場を取り戻し,会員数の減少に歯止めをかけ,学会の継続と発展につながると考えます.


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