特別小特集 AI時代の持続可能な地方分散社会を目指して 編集にあたって

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Vol.103 No.10 (2020/10) 目次へ

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特別小特集 AI時代の持続可能な地方分散社会を目指して

編集にあたって

特別小特集編集委員会委員長 芥子育雄

 新型コロナウイルスとともに生きる「Withコロナ」時代の到来により,東京一極集中から地方分散社会への流れが現実味を帯びてきた.2020年5月全国の大学は一斉に遠隔授業を始めた.学生は大学のある町に移住せず,実家のある地域に分散して遠隔授業を受けた.また,大企業を中心にリモートワークが導入され,オフィスを削減し,在宅勤務を基本とする勤務体制が試行されている.満員電車での通勤・通学や大オフィス・大教室での勤務や授業のような三密を避ける新しい生活様式が始まった.

 日立京大ラボが2017年9月に公表したAIを活用した将来シミュレーション「政策提言AI」では,2050年に持続可能な社会であるためには,2025年頃からの都市集中型か地方分散型かの選択が最大の分岐点であり,持続可能性の観点からは地方分散型が望ましいと提言された.

 富山,石川,福井の北陸3県においても高齢化率が全国平均を上回りながら,人口減少が進行している.特に10代後半からの若者の減少は,安心・安全な社会の仕組みの維持が大きく影響を受けると言われている.このため北陸3県では持続可能な地方分散社会を目指した様々な取組みが進められてきた.このような背景の下,北陸支部が担当する本特別小特集では,北陸未来ビジョン,北陸各地域の課題や地域に共通する価値観,AIやIoTなどを用いた地域課題解決のアプローチについて,技術や事例を紹介しながら,分かりやすく解説することとした.

 1章は,北陸経済連合会に未来ビジョンを紹介頂いた.2030年代中頃の北陸3県のビジョンは,交通インフラ整備,ディジタル革新の進展,一体感のある「One Hokuriku」の形成により,一人当り域内総生産を東京並みの700万円に引き上げ,多様性と一体性の両立を目指すとした.

 2章は,福井新聞社と日立京大ラボが共同で推進した,「政策提言AI」を用いて,「福井人の幸せ」をシミュレーションした事例を紹介頂いた.「つながりアクティブ社会」を提言し,経済団体や住民主導のアクションにつながり,県長期ビジョンへの理念の反映など波及効果も大きい.

 3章は,北陸先端大が推進している,AI/IoTを活用して地域課題を解決するための工学的な設計手法(手順,フレームワーク)を紹介頂いた.本手法を用いて学生が石川県能美市役所と連携して実施した地域課題解決のためのアイデアソンにより,手法の有効性が検証された.

 4章は,福井工業大学で進めている,国内唯一の全生活用水を雨水だけに依存する離島での雨水活用システムの実証実験を紹介する.また,福井市のデータを基に,IoTを街中の雨水活用システムに導入し降雨前排水を行った場合の洪水緩和効果のシミュレーション結果を示す.

 5章は,産業技術総合研究所が推進している,高齢過疎地などにおける短中距離移動サービスに自動運転技術を活用したラストマイル自動走行について,福井県永平寺町での実証評価とAI技術の活用について紹介頂いた.利用者からは安全性や実現性に高い期待感が示された.

 6章は,「富山ブロックチェーン研究会」を運用するインテックの古瀬正浩氏(編集委員会委員)に地域の課題解決へのブロックチェーンの適用例を紹介頂いた.また,ブロックチェーンを用いて地域固有の価値を地域内で流通移転させるためのプラットホーム構築が提案された.

 末尾となりましたが,執筆依頼を御快諾頂いた皆様,編集委員会の皆様,事務局の皆様に感謝申し上げます.

2020年10月号特別小特集編集委員会

委員長 芥子育雄(福井工大)   幹 事 田中清史(北陸先端大)  委 員 井口 寧(北陸先端大)  委 員 古瀬正浩(インテック)  委 員 平野晃宏(金沢大)    委 員 高 尚策(富山大)   


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