特集 光周波数コムの最新状況と応用展開 特集編集にあたって

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Vol.103 No.11 (2020/11) 目次へ

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特集 光周波数コムの最新状況と応用展開

特集編集にあたって

編集チームリーダー 石黒仁揮

 光周波数を高精度に測定するための技術として1990年代後半に開発された光周波数コムは,それまでの大掛かりな装置を不要にする革新的な技術であり,発明者は2005年にノーベル賞を受賞している.直接的な応用である度量衡の分野で,長さ(メートル)や時間(秒)の標準の精度に大幅な向上をもたらしている.本会会員の多くの方にとって,度量衡の分野は余りなじみがなく,また「光周波数コム」も専門外の多くの方には,これまで耳にしたことがない用語かと思われる.しかしながら,光周波数コムは,高精度な測距やイメージング,分光による物性解析,通信や天文学の分野など,当初の予想をはるかに超えて極めて多岐にわたる分野に応用展開されつつある.また,光周波数コムの技術は,15桁にもわたる極めて広い周波数レンジを有し,フォトニクスとエレクトロニクスをリンクするもので,多岐にわたる技術が使われている.今後,フォトニクスや精密計測分野以外の方にとっても把握しておくべき重要な技術になると考えられる.

 光周波数コムの分野において,これまで日本では数々の先駆的な研究や応用開発が行われてきており,世界的に見ても日本が主導的な役割を果たしている.本特集では,光周波数コムの原理や研究の歴史,最新の光周波数コム生成技術,更に豊富な応用例を,当分野を代表する多くの研究者の方に解説頂く.

 第1章の「光周波数コムの開発の歴史と革新的応用への展開」では,過去の光周波数計測の技術から始まり,光周波数コムの発明及びその後の技術的発展に至る歴史,更には今後の発展について概説頂く.応用という観点から光周波数コムが与えるインパクトを説明頂く.

 第2章の「光周波数コムの光源開発」では,光周波数コムの光源として開発が進められている四つの方式について特徴などを解説頂く.まず,2-1において,開発初期の固体レーザ(チタンサファイアレーザ)を用いた光周波数コムの動作原理と開発の経緯や課題について解説頂き,2-2で小形・安定で,効率も高く,実用性に優れたレーザとして光周波数コムの主要な光源としての役割を担っているファイバレーザコムについて,原理や最近の開発状況を概説頂く.2-3では,モード同期レーザよりもはるかに高い繰返し周波数(>10GHz)が実現でき,自由度も高い電気光(EO)変調器を用いた光周波数コムの原理や特徴を解説頂き,2-4では小形で可搬性があり,繰返し周波数が高いという特徴を有するマイクロ共振器を用いたコムに関して,その構造作製方法や特性などを解説頂く.

 第3章の「光周波数コムの応用」では,まず,光周波数コム開発の初期の目的である長さ標準への応用として,光コムと周波数標準や長さ標準の関係を解説し,実際の計測の手法を3-1で概説頂く.次に,測距やイメージング・センシングへの応用として,3-2で電気光学光コム発生器による三次元形状計測装置を,3-3では共焦点レーザ顕微鏡に導入し性能を革新的に高める試みや,光周波数コムのファイバ共振器を光学的音響センサとして利用する試みを紹介頂く.分光系の応用として,3-4において,デュアルコムによる屈折率,磁気光学効果計測の応用例を,3-5では従来技術では不可能であった燃焼ガス点火後の分子種ごとの温度やその変化などに応用できる気体分子の温度計測の研究について,更に3-6では天文コムと呼ばれる天文学に光周波数コム分光法を適用する試みを解説頂く.光周波数コムの有する高い周波数精度は,通信分野における大容量化などへの応用も期待される.3-7では,光周波数コム光源を用いた光ファイバの伝送容量の増大に向けた取組みを,また,3-8では,光周波数標準と密接に関係する狭線幅化,多ブランチ化,広帯域化など光コムの進化を紹介頂く.

 以上,光周波数コムの開発の歴史から最新の光源開発,更に多岐にわたる応用分野の記事で組まれた本特集が,様々な専門分野で構成される本会の多くの読者の方に光周波数コムに興味を持って頂き,その原理や応用を理解して頂く際の一助となれば幸いである.

 最後に,お忙しい中,本特集の解説記事を御執筆頂いた執筆者の皆様,また,編集チームの皆様,学会事務局の皆様に深く感謝申し上げます.

特集編集チーム

 石黒 仁揮  北  翔太  鍬塚 治彦  青木 豊広  石鍋 隆宏  井上 和弘  佐藤 具就  志岐 成友  庄司 雄哉  髙橋 康宏  谷尾 真明  田能村昌宏  堤  恒次  仲村 泰明 


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