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最近,街中で外国の人と接する機会が以前に増して多くなってきました.この原稿の執筆時点で2019年の累計はいまだ出ていませんが,日本政府観光局(JNTO)によれば訪日外国人の数は2014年に1,000万人を超えて2018年には3,100万人超となり,この5年で3倍ほどの伸びだそうです.また,法務省の統計では2018年末の在留外国人数は273万人と過去最高を更新しているそうです.在留外国人の国別では中国28%,韓国16.5%,ベトナム12.1%,フィリピン9.9%,ブラジル7.4%の順とのこと.新幹線に乗ると多くの外国人旅行者がこの国を訪れていらっしゃるのを実感しますし,私の自宅周辺(神奈川県の郊外)でも在留外国人と思われる人たちがバスや電車内でいろいろな言語で会話しているのを見るのが日常になりました.
昨年,久しぶりに学会以外の用事でお隣の国,中国を訪ねる機会がありました.私は中国語ができないものですから,中国観光で慣れない町の一人歩きに苦労したことがありました.そこで今回,訪問予定の町を用意周到に調べて出掛けたのですが,そこでちょっと意外なことがありました.道に迷い,仕方なく通じそうな人に英語で尋ね掛けてみたときのことです.その人はおもむろにポケットからスマートフォンを取り出して「モニョモニョ」っとスマホに向かって話し掛けるとそのスマホを私に見せるのです.音声認識多言語翻訳のアプリでした.私にもそのスマホに向かって話すように身振りで促し,そのやり取りを3~4回繰り返すと一連の会話が成立して用を足すことができました.このようなことが空港の売店やホテルのレストラン,行く先の街中でも何度かあったのです.
機械翻訳が論文執筆などに役立つことは私も知っていました.多言語翻訳のアプリについても興味本位でダウンロードして試してみたことがありました.ただ,恥ずかしながらこれを日常の実戦? で利用することまでは思い及びませんでした.日本の機械翻訳技術はすばらしいものです.専門家の話では,今後は多言語同時通訳の実用も進むはずだと聞いています.しかしながら街中でスマホアプリを使って海外からの来訪者とコミュニケーションするシーンはいまだ余り見たことがありません.中国と日本では事情の異なることもあろうかと思いますし,中国も広大な国ですから町々によって状況は異なるでしょう.ただ,今回の経験でICT活用に対する一般の人たちの姿勢に学ぶところが多くあると感じた次第です.
「ガリバー旅行記」の中に「必要は発明の母」という有名な言葉があります.また,多くの研究者が自らの研究開発の過程で「窮すれば通ずる」という経験をお持ちかと思います.しかしながら,豊かになった日本の日常生活で「窮する機会」が少なくなっていることも事実のようです.豊かさに浸って時代の大きな変化の中で新たな‘もの’や‘こと’に自ら取り組まなければ,研究者,技術者としての目が曇りかねません.今年はオリンピック・パラリンピックの年,昨年のワールドカップに続き多くの外国の方をお迎えする機会です.5Gをはじめ,Society5.0に向けたサービスが本格化します.私たちが技術の活用に目を向ける良い機会でもあるはずです.少子高齢の課題先進国である日本が電子情報通信技術の活用とその御利益の享受を実践し,多くの人々と共有できる年になるよう期待し取り組んでいきたいものです.
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