小特集 量子技術に着想を得た次世代コンピューティング 小特集編集にあたって

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Vol.103 No.3 (2020/3) 目次へ

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小特集

量子技術に着想を得た次世代コンピューティング

小特集編集にあたって

編集チームリーダー 石黒仁揮

 最近,ちまたで量子コンピュータに関するニュースが増えてきている.世界の大手IT企業が量子コンピュータの開発に力を入れており,Google社が自社で開発中の量子コンピュータで,従来のスーパコンピュータで1万年程度かかる計算を僅か数分で解き,量子超越性を達成したと主張したかと思えば,同じくゲート方式の量子コンピュータで開発を競うIBM社がGoogle社の主張を否定するなど,競争が激化してきている.2011年5月にカナダのD-Wave Systems社が量子アニーリング方式で世界初の商用量子コンピュータを発表して以来,それまでは遠い将来の技術と思われていた量子コンピュータの利用が急に現実味を帯びてきた.また,量子技術に着想を得て従来のCMOS回路で擬似的に動作を再現する試みも盛んにされている.

 IoT技術により低コストで大量のデータの収集が可能となり,そのデータを基に,組合せ最適化に帰着できる課題が増えたことなど,更なる高性能コンピューティングに対する要求が著しく増大してきている.過去50年にわたりLSIの性能向上を支えてきた半導体微細化は物理的限界に近付きつつあり,ムーアの法則の終えんがささやかれる中,従来の微細化に頼らない新しいコンピューティング技術として量子コンピュータが注目を集めている.

 本小特集では,2019年本会総合大会における電子デバイス研究会依頼シンポジウムを基に,近年進展が著しい量子コンピュータや量子技術に着想を得た新しいコンピューティング技術について,第一線で活躍されている研究者の方々に御寄稿頂いた.

 1章では,まず,量子アニーリングの考案者である西森秀稔氏に,量子アニーリングの原理を分かりやすく解説頂き,実機開発の現状と課題及び将来展望を紹介頂いた.次に,汎用量子コンピュータ,NISQ(Noisy Intermediate Scale Quantum Compute),量子アニーリングマシンについて,それぞれの原理,特徴,最新研究開発動向を松崎雄一郎氏,川畑史郎氏に解説頂いた.更に,既存のシリコントランジスタ作製技術で製造でき,従来型シリコン集積回路との接続性の良さなどから注目を集めている,シリコン中の深い不純物の電子スピンを用いた高い温度(10K)での動作が可能な量子ビットについて大野圭司氏に紹介頂いた.また,ジョセフソン接合による超伝導体を用いた量子ビットについて,高精度操作,読出し,更に計算の誤りに対し耐性のある量子コンピュータを実装するために現在の理論から要求されている技術を,白井菖太郎氏,吉岡輝昭氏,蔡 兆申氏に解説頂いた.

 2章では,光を用いた量子計算に関して,まず,動的に変化する不確実な環境の中で良い選択肢を選び取る意思決定課題を,レーザカオスやもつれ光子などの光の物理的特長を活用し解決する手法を成瀬 誠氏らに紹介頂いた.次に,線形光学素子に非古典光源や検出器を組み合わせて行う線形光学量子計算について松田信幸氏に解説頂いた.更に,ネットワーク化された縮退光パラメトリック発振器群を人工スピンとして用いてイジングモデルの基底状態探索問題を解くコヒーレントイジングマシンについて,武居弘樹氏,稲垣卓弘氏に解説頂いた.

 3章では,イジングモデルを従来のCMOS回路で擬似的に再現するCMOSアニーリングマシンについて,そのプロトタイプやソフトウェア開発の状況を山岡雅直氏に紹介頂いた.更に,動作原理やベンチマーク,代表的な応用事例について竹本一矢氏らに紹介頂いた.

 以上,幅広い分野の記事で組まれた本小特集が,読者の量子コンピューティングに関連する技術動向を理解する一助となれば幸いである.

 最後に,お忙しい中,本小特集の解説記事を御執筆頂いた執筆者の皆様,また,編集チームの皆様,学会事務局の皆様に深く感謝申し上げます.

小特集編集チーム

 石黒 仁揮  堤  卓也  北  翔太  鍬塚 治彦  青木 豊広  石鍋 隆宏  井上 和弘  佐藤 具就  志岐 成友  庄司 雄哉  髙橋 康宏  谷尾 真明  田能村昌宏  堤  恒次  仲村 泰明 


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