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3.半導体技術を利用したイジングマシンの実現と応用
小特集 3-2
実社会の組合せ最適化問題を解く「デジタルアニーラ」技術
Digital Annealer Technology to Solve Real-world Combinatorial Optimization Problems
abstract
「デジタルアニーラ」(DA)はマルコフ連鎖モンテカルロ法に基づき,イジングモデルにマッピングされた組合せ最適化問題を高速に解くためのアーキテクチャである.ビット間が全結合,多階調で接続されており,多様な組合せ最適化問題を表現可能な点が大きな特徴となっている.製品版としては現在,第2世代の専用プロセッサを用いた8,192ビットのサービスが提供されており,クラウド及びオンプレミスでの利用が可能となっている.本稿ではDAの動作原理について述べるとともに,創薬・物流分野の応用事例にも触れる.
キーワード:組合せ最適化,「デジタルアニーラ」,量子インスパイアードコンピューティング,イジングマシン
組合せ最適化問題とは,様々な制約の下,与えられた組合せの中から最善と思われるものを限られた時間で探し出す問題である.スケジュール決定やカーナビの最短ルート決定といった日常的なものから,災害時の復旧計画など大規模な社会課題に至るまで,多くの問題が組合せ最適化問題に帰着される.こうした組合せ最適化問題を高速に解く新たな手法として,量子アニーリングの概念が門脇・西森らにより提唱された(1).量子アニーリングでは,量子揺らぎを導入することにより,計算時間の掛かる組合せ最適化問題に対して効率良く最適解を得られる可能性があることから,現在世界中で研究開発が進められている.
しかしながら,実際の量子アニーリングマシン(2)は量子ビット数や,量子ビット同士の結合密度,相互作用係数の階調などに制限があり,イジングモデルにマッピングされた組合せ最適化問題を自在に解く上でのハードルとなっている.これらはテクノロジーの進化とともに改善する可能性はあるが,実装上の課題を地道に克服していく必要があり,実用水準に達するには相応の時間が掛かると言えよう.
このため富士通では,実社会の組合せ最適化問題を高速に解く新たなアーキテクチャとして「デジタルアニーラ」(DA: Digital Annealer)を開発した(3).DAでは量子効果そのものは使用していないが,量子技術に着想を得た複数の高速化の仕組みがディジタル回路上に実装されている.従来の半導体技術を用いていることから極低温動作が不要で,ビット間も全結合・多階調で接続可能など,様々な利点を備えている.2018年には第2世代となる8,192ビットを有する専用プロセッサ「Digital Annealing Unit(DAU)」が発表された.
こうした量子インスパイアードコンピュータとして,近年ではFPGAやGPUを用いた新たな方式も報告されているが(4),(5),現時点ではMax-CUTなど基本的な組合せ最適化問題への適用にとどまっている.本稿ではDAの実社会課題への適用として,はじめにDAの原理を述べたあと,幾つかの組合せ最適化問題の求解に触れ,創薬・物流分野でのアプリケーションを紹介する.
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