小特集 光・時刻リンク技術による高精度な周波数標準のアプリケーション 小特集編集にあたって

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Vol.103 No.4 (2020/4) 目次へ

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小特集

光・時刻リンク技術による高精度な周波数標準のアプリケーション

小特集編集にあたって

編集チームリーダー 井戸哲也

 時刻の生成・維持や原子周波数標準の開発と聞くと,時の番人のような職人や細かい精度にこだわる研究者がじっと実験室に閉じこもって維持管理や研究開発を行っていると思うかもしれない.

 確かに数百年前は恐らくそうだった.当時は1台開発したら日の出,すなわち地球の自転というリファレンス時計によって開発した時計の性能評価をすることができた.しかし現代の時計は自転の精度を優に超えるため,時刻や発振周波数を他の同レベルの人工時計と比較することなしには正常動作を確認することはできない.ここで二つの時計が並べてある場合,時計の性能の確認ができるのみである.二つの時計が物理的に離れている場合,リンクする必要が出てくるが,その手間を補って余りある多様なメリット・用途が時計の比較にはある.この事情は,次世代の周波数標準である光格子時計が含まれる光周波数標準でも変わらない.むしろ光の場合,光ファイバによるネットワークを活用することができ,遠距離リンクとは相性が良いかもしれない.

 本小特集では,そのような時刻基準や周波数標準の比較・同期技術によって花開きつつある様々な応用技術を取り上げた.社会に密着して使用されている日本標準時やタイムスタンプから,素粒子実験まで幅広い用途において正確な時刻・周波数が基盤技術となっていることを示している.そして,それらは時計が1台だけでなく,複数台が一定の距離を置いて設置され,複数の時計が何らかの手段でリンクさせていることにも注目して頂けると有り難い.時計も人間同様に,複数が情報をやり取りして協力することで新たな地平が広がってくるのである.人類は「多数が意思疎通を図り協力することができるようになったこと」と「狩猟採集社会から農耕社会へ移行すること」が同時期だったと聞く.どちらが原因でどちらが結果か,はたまた単なる偶然か筆者は知らないのだが,時計は今ようやく狩猟採集社会から農耕社会に移りつつあるのかもしれない.

 狩猟採集社会から農耕社会へ移ることによって人類は穀物という安定した食料を得ることに成功し,食が安定することで,文化的なことを考えることができ,また秩序維持に専心する者を食べさせる余裕もできたため,集団としての社会の安定につながったそうである.これから農耕社会に入っていく高精度な時計の世界は,更なる発展のためにまずは精密な時刻・周波数標準を利用して安定した収入を得られる仕組みを作ることが第一歩なのだろう.本小特集の中にはまだ社会実装に至っていないものが数多くあるが,この中に安定した生産につながる良い遺伝子を持った種が隠れているかもしれない.種は幾ら眺めても有望かは分からないので,欲張りかもしれないが,どの種にもまずは種まきをして水をやって成長を見てほしい.編者としてはそんな思いで本小特集を編む次第である.

小特集編集チーム

 井戸 哲也  宮村  崇  大島 正資  小島 政明  高橋 英憲  中川 拓哉  牧 謙一郎  町澤 朗彦  山田  渉  四方 博之 


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