小特集 2. オープンデータを利用したスポーツ選手・チームの定量的実力評価

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オリンピック,パラリンピック,そして

小特集 2.

オープンデータを利用したスポーツ選手・チームの定量的実力評価

Quantitative Skill-evaluation of Athletes Using Open-data

小中英嗣

小中英嗣 正員 名城大学理工学部情報工学科

Eiji KONAKA, Member (Faculty of Science and Technology, Meijo University, Nagoya-shi, 468-8502 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.103 No.6 pp.571-578 2020年6月

©電子情報通信学会2020

abstract

 近年,野球におけるセイバーメトリクスに代表されるように,スポーツにおけるデータ活用が進んでいる.本稿ではその中でもランキングポイントや得点など,競技にかかわらず広く公開されているオープンデータを活用した定量的実力評価手法について解説する.特に,得失点や勝敗のみに基づく統一的な評価モデルであるイロレーティングとその周辺を中心とする.また,複数競技における定量的実力評価及びそれを活用した試合結果予測を,筆者の実践事例を中心に紹介する.

キーワード:スポーツ,予測,オープンデータ,レーティング

1.ま え が き

 近年,野球におけるセイバーメトリクス(SABR(注1) metrics)に代表されるように,スポーツにおけるデータ活用が進んでいる.その存在が広く知られるきっかけとなったのは,「マネー・ボール」(1)であろう.選手評価に利用されてきた打率・打点のような素朴で伝統的な指標及びスカウトの勘に代わり,勝敗への実際の寄与が高い発展的な指標を発見し,かつ年俸が安い選手を活用することで予算が少ない球団がいかに生き残るのかを描いている.「マネー・ボール」の2000年代初頭以降,野球におけるデータ分析の存在感は加速度的に増しつつある.詳細なプレーデータ計測機器として,選手及びボール(投球及び打球)の位置,速度,回転速度などの物理量を観測するStatcast(2)が開発され,2015年にはMLB(注2)本拠地全30球場に設置された.これらの統計及び計測データに基づいて算出された各種指標はAdvanced Stats(3)と呼ばれ,MLB公式サイトでも公開される(4)など活用が進んでいる.投球・打球の回転速度や加速度などまで詳細に得られるようになったことは攻守共に戦術の変更に対する大きな圧力となっており,このような2010年代の状況は文献(5)に詳しい.

 位置データなどの取得は屋内スポーツの方が容易であり,野球よりも早い時期から進んでいる.バレーボールはコートが小さく(9×18(m2))数台のビデオカメラで試合全体を記録することが可能であり,かつ各プレーの切り分けが明確である.このことから,動画像及びデータに基づく戦略立案に関して先進的なスポーツであり(6),それを支えるのは世界共通でデファクトスタンダードとして利用されている分析ソフトウェア「データバレー」(7)の存在である.

 バスケットボールでは,NBA(注3)はシュート位置及び成否のデータを公開しており,試合単位や選手・チームごとでの検索が可能となっている(8).2013年以降NBAはSportVUシステムを導入し,詳細なデータ計測を開始している.SportVUは6台のカメラを用い(注4),25フレーム/秒で各選手(5名×2チーム)及びレフェリーの平面座標,及びボールの三次元座標を計測するものである.各チームには生データが提供され,ファン向けには加工したデータが公開されている(9),(10).シュート位置だけであれば,FIBA(注5)主催の国際試合などでは(SportVUが実装されていない会場であっても)速報データに既に含まれている(一例として,文献(11)).NBAでは過去のシュート統計から3ポイントシュートの得点効率の良さが確認され,それに着目した戦略を採用するチームが増えており,その結果3ポイントシュートの試投数が一貫して上昇傾向にある(12)(図1)など,ここでもデータ分析が戦略に明確な影響を与えつつある.


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