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解説
アドホックネットワーク研究の立ち上げ
Launch of the Adhoc Network Research
A bstract
アドホックネットワーク技術は基地局やアクセスポイントなどの無線通信インフラなしに端末間で無線ネットワークを構築する技術である.無線が直接届かない端末間も他の端末が中継することで通信が可能である.アドホックネットワーク技術は1990年頃から米国の国防関係で研究が開始された.1997年にはIETF内にアドホックルーチングの標準化を目的としたMANET WGが設立され,世界的にアドホックネットワークの研究が活発化した.国内でも2004年頃から研究が活発化した.筆者らの研究グループは,2000年頃からアドホックネットワークの研究を立ち上げ,アドホックネットワークの実用化に向けて各種システムの構築,技術開発及び標準化活動を推進した.本稿ではアドホックネットワーク研究の立ち上げ及び実用化に向けた活動について述べる.なお,アドホックネットワーク技術はスマートグリッドなどに採用されるなど,IoTシステム向けの無線ネットワーク技術として実用化されている.
キーワード:アドホックネットワーク,アドホックネットワークの実用化システム,経路安定化,スループット改善
アドホックネットワーク技術(1)の歴史は古く,1970年代から始まった米国国防総省(DARPA)の軍事目的の研究(2)が最初とされる.その後,インターネットの発展とともに民間利用として注目が集まり,1997年にはIETFでの標準化が開始された.国内でも2004年頃からアドホックネットワークの研究が活発化してきた.
筆者が2012年まで在籍した(株)日立製作所システム開発研究所(当時)の研究グループは2000年頃からアドホックネットワークの研究を立ち上げ,実用化に向けたシステム構築及び技術開発を行ってきた.本稿では,これらについて述べる.
筆者のアドホックネットワークに関する研究のフェーズは,第一期(2000年から2006年),第二期(2007年から2011年),第三期(2012年から現在)に分けられる.このうち,第一期及び第二期は当時筆者が所属していた(株)日立製作所においての研究,第三期は現在所属している大阪工業大学での研究である.研究立ち上げフェーズは主に第一期である.以下,第一期及び第二期における研究への取組みついて述べる.なお誌面の都合上,第三期については割愛する.
2000年当時,筆者が所属していた(株)日立製作所システム開発研究所の研究グループから一人の研究員を南仏にある大学院大学であるEurecom(3)に派遣し,共同研究を行っていた.指導教官からの提案で始めたのがアドホックネットワークの研究である.その後,フランスの国立研究機関であるINRIA(4)のHypercomプロジェクトのリーダであったP. Jacquet教授(5)及びT. Clausen研究員(6)(現Ecole Polytechnique(7))との共同研究も開始した.P. Jacquet教授及びT. Clausen研究員はアドホックネットワークの標準化を進めているIETF MANET WG(8)の中心メンバーで,OLSRルーチングプロトコル(注1) (9)の提案者である.当初は欧州を中心に研究を行っていたが,その後,国内でも研究を開始した.初めのうちは独自のルーチングプロトコルを使用し研究所内に数ノードの小規模システムを構築していたが,INRIAとの共同研究開始後は,OLSRを採用したシステム構築を進めた.この頃,国内では新潟大学間瀬教授(当時)を中心にアドホックネットワーク時限研究専門委員会(後に第一種研究会に発展)及び「アドホックネットワークプラットフォームに関するコンソーシアム」(10)が発足した.筆者らは,専門委員会の幹事及びコンソーシアムの事務局を務めた.また2004年に総務省の戦略的情報通信研究開発推進事業「次世代アドホックネットワーク基盤技術に関する研究開発」(代表:間瀬教授)を受託した.
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