解説 電磁界シミュレーション技術の将来像

電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
Vol.103 No.6 (2020/6) 目次へ

前の記事へ次の記事へ


 解説 

電磁界シミュレーション技術の将来像

Future Vision of Electromagnetic Field Simulation Technology

木村秀明

木村秀明 正員:シニア会員 中部大学工学部情報工学科

Hideaki KIMURA, Senior Member (Department of Computer Science, Chubu University, Kasugai-shi, 487-8501 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.103 No.6 pp.607-613 2020年6月

©電子情報通信学会2020

A bstract

 近年の計算機性能の加速度的進展,高効率計算アルゴリズム等の数値計算に関わる各種技術の提案,技術確立に伴い,エレクトロニクス分野における電磁界シミュレーション技術の適用領域の拡大及び大規模化が著しい.更に,数値シミュレーション技術は人工知能等の新たな技術との連携により設計者支援ツールという従来の立場から設計ツールという新たな立場へと変化している.本稿では,電磁界シミュレーション技術について基本原理,数値計算法及び基盤技術について説明するとともに,数値シミュレーション技術全体の将来像を展望する.

キーワード:マクスウェル方程式,電磁界,シミュレーション,プロセッサ,自動化

1.は じ め に

 近年,CPU(Central Processing Unit),GPU(Graphic Processing Unit)等各種プロセッサ高速化,メモリ容量増大に起因する計算機性能向上,高効率計算アルゴリズム等の各種技術の提案・確立に伴い,電磁界シミュレーション技術はその適用領域を電気・光デバイス,回路レベルからモジュール,システムレベルへと順次拡大している.本稿では,エレクトロニクス分野において進化・発展を遂げてきた電磁界シミュレーション技術について,基本計算方法及び高速・大規模化に向けたハードウェア,ソフトウェア技術について説明するとともに分野を横断,連携した数値シミュレーション技術全体の将来像を展望している.

2.電磁界シミュレーション技術

 本章では,「シミュレーション」とは「何か」を再確認するとともに,マクスウェル方程式を基本とした電磁界シミュレーション技術の基本原理,各種計算法及び利用形態の変化について説明する.

2.1 シミュレーションの定義

 「シミュレーション」と聞くと「シミュレーションmath設計」と考えがちだが,一般にはシミュレーションは「予測・予想」するための手段を意味する.現在,シミュレーションが利用されている各設計分野においては「設計ツール」ではなく,あくまで「設計者支援ツール」と考えられている.ただし,今後数値シミュレーション技術及び周辺技術の進展により「完全自動設計」が実現された場合,シミュレーションの定義自体が変わるかもしれない.

2.2 マクスウェル方程式を解く

 電磁界シミュレーションとは,自然界における電磁気的現象を説明可能なマクスウェル方程式を解くことで電磁界分布の物理構造依存性,物理構造と電磁界の相互作用を把握するための技術である.マクスウェル方程式とは図1に示すようにガウスの法則,磁気モノポール不在の法則,アンペアの法則,ファラデー電磁誘導の法則に対応した4方程式から構成される.また,マクスウェル方程式は「全ての起源」とも呼ばれ,一般によく知られたビオ・サバールの法則,クーロンの法則等様々な法則が導出可能である.マクスウェル方程式の表現として微分及び積分形式が存在するが,一般に微分形式は数学的理解,積分形式は物理的理解に役立つとされ,教育現場においては使い分けが行われている.


続きを読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。


続きを読む(PDF)   バックナンバーを購入する    入会登録

  

電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。

電子情報通信学会誌 会誌アプリのお知らせ

電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード

  Google Play で手に入れよう

本サイトでは会誌記事の一部を試し読み用として提供しています。