巻頭言 新型コロナ禍とICT

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Vol.103 No.6 (2020/6) 目次へ

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巻頭言

新型コロナ禍とICT ICT for Novel Coronavirus副会長 松島裕一

 この時期通常であれば,情報通信分野では最先端の5G(第5世代移動通信方式)の商用化が我が国で始まり,様々な新たな利用形態が実際に社会展開され,多くの話題を集めていただろう.また,オリンピックの聖火も日本に到着して各地での聖火リレーが報道されていたであろう.しかしこの草稿を作文している4月現在の状況は,全く予想と異なる様相を呈している.急激な新型コロナウイルスの蔓延による,新たな脅威が世界を席巻している.この非常事態における情報通信技術(ICT)の果たす役割,求められる技術について考えさせられることが多くなった.

 私は「次世代安心・安全ICTフォーラム」(http://ictfss.nict.go.jp/)の会長も務めさせて頂いており,日頃から耐災害に向けたICTの果たす役割の重要性,最先端の研究開発の進展を見聞きしている.これまでの耐災害ICTは主に,地震/津波,台風/大雨など自然災害を主要な事象として取り上げ,その事前検知,防災・減災,復旧・復興などをICTの利活用によって,いかに迅速かつ的確に対応するのかが主要な観点であった.自然災害の状況は可視化でき,ある意味一過性であるため被災後は直ちに復旧に向けた行動ができ,おおよそではあるが復興への道筋が見通せた.今般の新たなウイルス禍は自然災害とは様相を全く異にする.対象であるウイルスは電子顕微鏡でしか可視化できず,普通は目に見えない.また,その災禍の拡散は規模,時期共に予測がつかず一層の社会不安を惹起する.ただし,このような感染症との戦いは人類史上初めてではない.これまでも多くの感染症の蔓延があり,多くの犠牲を払いながら人類は生存を継続してきた.現在も高度化した最先端の医療技術により,災禍を最小化する努力は世界中で不断に実施されている.

 この新たな感染症の蔓延に対して,インターネットやスマートフォンに代表されるICTがどのように効果的な役割を果たせるのか? 一例としてテレワーク,学校での遠隔授業,遠隔診断,ビッグデータ解析による人流の可視化などが話題となっているが,その普及度,効果には疑問な点も多い.政府の非常事態宣言後でも,テレワークは東京都ですら25%以下であり,地方や小規模企業でははるかに少ないとのニュースも流れている.学校での遠隔授業も全国規模ではまだ普及していると言い難く,端末の学校・児童への配布,通信環境の整備が急がれているが,一朝一夕には難しい.むしろ都会の学習塾の方が進んでいる.また,遠隔診断についても法の規制が緩くなるとの情報もあるが,本当に必要とされる高齢者にはまだまだ敷居は高い.これらICTの利活用に関しては残念ながら国策の差異はあれ,欧米や中国/韓国等の後塵を拝していると言わざるを得ない.

 スマートフォンの普及が日常生活に根付きつつあるとはいえ,児童や高齢者などが普段から幅広くICTを利活用している状況ではないので,突然の利用促進策では普及が難しい.これらを解決するためには,日頃よりディジタルディバイド(ICTを利用したり使いこなしたりできる人と,そうでない人の間に生じる,貧富や機会,社会的地位などの格差.個人や集団の間に生じる格差と,地域間や国家間で生じる格差:IT用語辞典)の解消が大きな鍵となろう.このような時期だからこそ,ICTの中核技術に係る老舗の専門家集団である本会が果たすべき社会的な役割はますます大きく,今後とも政策提言など含めた安心・安全ICTのユニバーサルな普及促進に向けた活動が望まれる.会員諸賢の英知を出し合い,共に頑張っていきましょう.

 最後に本稿が手元に届く時期には,この災禍が回復に向かい,明るい出口が見えていることを切望している.


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