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本会選奨規程第29条(電子工学及び情報通信並びに関連分野における教育実践(学会,教育機関,企業等での教育の実践)において顕著な成果を挙げ,当該分野の教育の発展に寄与した個人)に基づき,下記の3名を選び贈呈した.
高周波工学の美しき理論と教育実践
21世紀に入り放送・通信・パワエレ・搬送・医療など様々な業界で高い周波数への推移が加速しています.高周波の振舞いは複素数・行列・微積分を駆使した数式で記述されており初学者にとって敷居が高いのが通常です.これに鑑み大平 孝君は高周波工学を構成する物理量の相互関係を「美しき理論」で表現することに取り組みました.エレガントな表現=物理的意味の理解しやすさという理念に基づき高周波ものづくり教育時代の幕開けを提唱,そのための理論体系を構築するとともにその普及に向けた教育を実践しました.
同君は,電気回路の基本指標でありながら場面場面で異なる計算式で表示され混沌としていたファクタに着眼し,それを主役とするミステリー探検小説(-uest)を執筆,この物語はIEEE Explore Most Readに輝くとともに文部科学大臣表彰受賞作品となりました.
また,コイル間の磁界結合効率を支配する積を一般の線形網に拡張し汎用公式を導き出しました.この美しい公式は,ネットワークアナライザに実装され,世界的な計測器メーカにより製品化・発売されています.
同君は,これらの理論を基に,高専生・大学生に親しみ深いプラ電車とミニ四駆を用いるワイヤレス電力伝送コンテストを設立し,本会主催の走行中給電レースにて実践指導,ものづくり成功の秘訣を誌上公開しました.
システム高度化に伴い設計者はシミュレータに過度に頼りがちとなります.同君は,これに警鐘を鳴らし紙と鉛筆で解法探求に挑戦するアナログマインド醸成記事を本会誌の講座と学生/教養のページに15編掲載しました.
これまでの教科書では見られない独特のタッチと美しい数学表現で高周波理論を明快に説く同君の教育理念は,国内・海外の多くの機関からの招待を受け現在までに30回を超える技術講演で応えています.また,理論は聴くだけでは真の理解が得られません.そこで同君は理解を深めるクイズ形式の演習を創作しIEEEマガジン月刊誌に好評連載中です.これらの高周波への情熱と教育活動は高く評価されIEEE Distinguished Lecturerに選出されました.
同君の美しき理論構築と教育実践は世界水準に照らし卓越しており,本会教育優秀賞に推薦申し上げます.
ロボカップ世界大会と出張授業を利用した工学教育の実践
杉浦藤虎君は,1988年三重大学大学院工学研究科修士課程を修了後,豊田工業高等専門学校電気工学科に採用され,現在,同校電気・電子システム工学科教授として活躍されています.2002年から,自律移動ロボットによるサッカー競技「ロボカップ」を利用した工学教育・創造性育成教育を実践されています.ロボットの製作には,機械,電子,通信,人工知能等の高度な総合技術が求められますが,「ロボカップ」は理論に裏付けられた実践的知識を養成するための最適な教材と考え,機械・回路設計・プログラム等全ての要素を開発する指導に取り組まれています.また,「ロボカップ」は世界大会が開催され,同じ目標を持つ同年代の異国の学生と共通のテーマについて英語で議論できるため,工学技術のみならず,英語運用能力やコミュニケーション能力を高める貴重な機会と考え,2004年以来継続出場されています.更に学生のプレゼンテーション能力向上を目的として,出張授業に特化した研究課題を与え,技術の伝承と創造性の開発を両立する仕組みを構築されました.
同君は,ロボカップ世界大会出場資格を得るための論文・資料等の作成指導,大会中の審判員,実行委員としての競技運営などに尽力され,早朝から深夜に及ぶ献身的なサポートは敬服に値します.その成果は,ロボカップ国内大会サッカー小型部門優勝・準優勝多数回,更に世界大会3位1回,4位2回等の成績に表れています.また,小中学生・一般向けの出張授業等を行い,AIを導入したロボットの有用性について広く広報活動をされています.これらの業績に対し,2006年日本工学教育協会賞(業績賞),2010年日本ロボット学会賞,2012年国立高専機構理事長賞,2016年電気科学技術奨励賞等を授与されています.
同君の教育活動は,理論を実際のものづくりに照らして理解させたいという強い信念の下に行われており,本活動を通して他大学・他高専チームへの波及と発展に大きく貢献されるとともに,学生の創造性や興味を引き出す上で大きく寄与されています.その功績は本会教育優秀賞に十分ふさわしいと考えますので同君を推薦致します.
「サイバーセキュリティ特別専門学修プログラム」の設計と実施
田中圭介君は,1997年に北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士後期課程を修了後,NTT情報通信研究所に勤務,2001年に東京工業大学大学院情報理工学研究科講師,准教授を経て,2017年から同情報理工学院教授として務めるとともに,2018年から同サイバーセキュリティ研究センター長に就いています.
情報・通信技術の高度な活用とともにサイバーセキュリティに対する脅威も深刻化しています.情報セキュリティ人材の不足も指摘され続けており,経団連の「サイバーセキュリティ対策の強化に向けた提言(2015年2月)」でも述べられているように,人材育成に対する産学連携の重要性も認識されています.
このような社会的要請を背景に東京工業大学では企業等と連携し,大学院副専攻(Graduate Minor)に相当する教育プログラム「サイバーセキュリティ特別専門学修プログラム」を2016年4月に開設しました.ここでは東工大の大学院生がサイバーセキュリティの実践的内容を学ぶとともに,東工大の情報・通信分野の特色である理論分野の強みも生かし,基礎理論も同時に学ぶことができます.「セキュリティ業務を担う人材のスキル可視化ガイドライン(日本ネットワークセキュリティ協会,2019年1月)」に照らし合わせてもカリキュラムのバランスは取れています.
同君は2015年から現在まで,この教育プログラム主査として全体の設計及び実施において中心的な役割を果たしてきました.その中には新設の6科目12単位から構成されるコアカリキュラムの全授業科目の内容調整,授業講師との調整,連携企業との調整も含まれています.コアカリキュラム6科目科目履修生は合わせて毎年度延べ300名程度,プログラム修了生は毎年度30名程度います.
この教育プログラムは設置から5年目を迎え,優れた教育事例として,学会誌,一般雑誌,文部科学省の教育事例紹介,学内教育賞などにより取り上げられ学内外の関係者から高い評価を得ています.このような教育プログラムの設計及び運営をけん引してきた田中圭介君を推薦します.
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