巻頭言 明るい将来に向けて

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Vol.103 No.7 (2020/7) 目次へ

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巻頭言

明るい将来に向けて For Bright Possibility of Engineers総務理事 大橋弘美

 昨年6月から総務理事を務めさせて頂いています.早いもので,もうすぐ1年になろうとしています.本会に深く関わるのは,約2年振りでした.(大変失礼ながら)ほんの2年間でそれほど大きな変化はないと思っていた本会ですが,変化していることを強く感じています.外部状況の変化や,学会の会員数が減っていることなど危機感が強くなっていることもあり,特に,スピード感が変わってきています.危機感は,学会だけではありません.日本の学術・産業界の競争力低下を懸念する状況も大きな原因の一端であります.近年多くのノーベル賞受賞者が日本から出ましたが,ノーベル賞の受賞は,功績を十分精査されてからの受賞であるため,受賞時期と活動時期には時間差があります.昨今のノーベル賞の多くは,1990年代頃までの研究成果です.2000年以降,世界における日本の研究開発費の低迷や論文数の低下が問題になっており,日本の学術貢献・産業存在感など,危機感を感じざるを得ない状況にあります.実際,今こそ対策を打つべし,と「連携」「融合」を行い,この停滞感を打破しようとしています.しかし,残念ながら,新たな方向性が明確には出ていないように感じます.統一感のない日本の街並みや看板が象徴するように,日本人は,「連携」「融合」することが苦手で,変化も受け入れにくいため,世界の流れについていきにくいのではないかと感じています.

 このような時代の中で,学会は何ができるのでしょうか.

 学会は,将来の道しるべであるべきです.技術的にはもちろん,環境面でも,解決方法を示していく役割があるはずです.将来技術の道しるべとしては,従来の学会活動の中で一定の役割は果たしていると思います.しかし,環境面ではどうでしょうか.将来必要とされる技術分野に,十分,人材を集めるような環境が整備されているでしょうか.そもそも,日本の技術者は幸せでしょうか? 日本の技術者が働いている大学,会社では,技術者が幸せに仕事をしているように見えているでしょうか? その光景を見て,多くの人材が集まる環境にあるのでしょうか?

 残念ながら,日本では,技術者,エンジニアに対する理解が,乏しいと思います.例えば,技術者が,長者番付に上がってくることはあるのでしょうか? もちろん,名誉も富もいらない,という技術者もおられると思いますが,多くの人材を集めて,多くの成果を上げるためには,インセンティブの高い分野であることも必要です.技術者を趣味の集団のように扱っている限り,人材は集まらず,世界における日本の技術者の地位向上は望めないと思います.一方で,世界で戦えるように技術者を鍛える環境も必要です.そして,技術者自身が,アグレッシブに行動する環境を用意するべきだと思います.

 この原稿を書いているのは,4月末.新型コロナウイルスの影響で,緊急事態宣言が出され,日本中が,日常生活に制限がかけられている最中です.今まで例のない環境で,多くの人が,不安な生活を送っています.こんなときには,人類に必要な技術分野に十分な人材が集まっているのか,と疑問に思います.私は,今,価値観が大きく変わることを感じています.多分,次に“日常”を送るときには,今までとは全く価値観の変わった方向に世界が動いているはずです.価値観の変わろうとしているこのタイミングこそ,学会も,変わるチャンスです.日本における技術社会が大きく変化していくことを期待して,その一助を担うべく活動していきたいと思います.


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