小特集 6. 【消費×ICT】多感覚情報提示で作り出す食の喜び

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食とICT

小特集 6.

【消費×ICT】
多感覚情報提示で作り出す食の喜び

The Pleasure of Eating Created by Multisensory Interfaces

鳴海拓志

鳴海拓志 東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻

Takuji NARUMI, Nonmember (Graduate School of Information Science and Technology, The University of Tokyo, Tokyo, 113-8656 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.103 No.9 pp.909-915 2020年9月

©電子情報通信学会2020

abstract

 計算機を介することで人間と食の間により良い関係を作り出し,食体験を豊かにする技術がHuman Food Interaction技術である.食は五感を総動員する体験であり,それがゆえに食にまつわる感覚の仕組みを理解した上で,味覚や嗅覚を含む多様な感覚を提示できなければHuman Food Interactionの実現は難しい.本稿では,多感覚に働き掛けるインタフェース研究において昨今登場してきた革新的アプローチを概観するとともに,そうした多感覚情報提示を活用して食の喜びを作り出すHuman Food Interaction技術を紹介し,その可能性と展望を考察する.

キーワード:Human Food Interaction,多感覚情報提示,クロスモーダル知覚,機能的電気刺激,ファブリケーション

1.人と食の関係を作るHuman Food Interaction

 食と人間との関わりを考える上で,食品の味やおいしさ,食べることの喜びという観点は欠かすことができない.それでは,こうした食の消費活動をいかにしてICTで支援し,食体験をより良いものにできるだろうか? こうした問いに対し,計算機を介することで人と食との関係の再考や再構築を目指すHuman Food Interaction(HFI)という分野が勃興しつつある(1),(2).ICTの中でも,人と計算機,計算機を介した人と人,人とものの関係を扱う学問領域にHuman Computer Interaction(HCI)があるが,HFIはこれを食に特化させた分野と言える.様々な領域で計算資源を扱うことが当たり前になってきた現在,最も根源的な人間の活動ながらも,最も計算機との関係が直接的に見いだしにくいと考えられてきた食の分野にも,HCI研究としてのスポットライトが当たり始めた.

 食は健康のみならずQoL(用語)向上にも重要な日常体験であり,人間の根幹をなす.一方で,食がこれまで余り計算機と関連して扱われてこず,最近になってHFIという領域がにわかに注目を集めるようになった原因の一つは,五感を扱うインタフェース技術に幾つかの革新が起こったことにある.食は五感体験であり,味覚にとどまらず食感(触覚・聴覚),見た目(視覚),香り(嗅覚)など,あらゆる感覚を動員する.必然的に,これらにアプローチする手段がなければ,ICTで食体験に影響を与えることはできない.一般的なインタフェースとして視聴覚が用いられる一方で,バーチャルリアリティ分野を中心に触覚,嗅覚,味覚等を含む幅広い感覚提示インタフェースの探求が進められてきた.特に近年では,錯覚を活用することで多感覚情報提示を容易にするアプローチや,電気刺激を用いる感覚提示手法,更には3Dプリントによって様々な特性を持つ食品を作り出す手法など,新しい方法論から食にまつわる五感情報の提示が可能になってきている.こうした五感提示にまつわる新技術の登場がHFIという領域の登場を下支えしたわけである.

 そこで本稿では,計算機を介することで人と食の新たな関係を作り出し食の喜びをもたらすHFI研究の事例と動向について,昨今の多感覚に働き掛けるインタフェース研究の潮流と合わせて紹介していく.

2.クロスモーダル知覚とHFI


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