巻頭言 これからの研究会のスタイルと役割

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Vol.103 No.9 (2020/9) 目次へ

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巻頭言

これからの研究会のスタイルと役割 Style and Role of Technical Meetings Expected toward the Future通信ソサイエティ会長 菊間信良

 いきなり難しい話で恐縮ですが,私自身,アンテナの研究者ということから,電磁界,アンテナの話を少し致します.アンテナは,その上に電流が流れることによって電波を発したり受けたりするデバイスです.アンテナ及び電波の分野において,相反定理あるいは可逆定理と呼ばれる性質があります.これは,アンテナの指向性,偏波(電波の振動方向の偏り),インピーダンス(電気抵抗)等は,アンテナを,電波を送る送信アンテナとして使っても,電波を受ける受信アンテナとして使っても同じである,ということです.しかしながら,不思議なことに,アンテナを送信で用いる場合の電流分布は,受信で用いる場合のものとは異なります.この,“同じ”であるのに“異なる”,“異なる”からこそ“同じ”となる事実は,古くから知られているアンテナのパラドックス(逆説)の一つです.アンテナは,この可逆性から,解析の際,あるときは送信で,また別のときは受信で,というように適宜,使い分けてきました.その場その場で,送受の立場を変えて考えることができるという便利な性質です.

 この話は一旦横に置きまして,学会活動に目を向けたいと思います.とりわけ研究会活動は,会員に直接接する一番身近なサービスです.2014年度に通信ソサイエティ(通ソ)で研究会の技術研究報告(技報)の電子化を取り組み始め,2020年度,全ソサイエティで技報の電子化が行われ,完成となりました.学会における大きなビジネスモデルの変革の一つといえます.また2020年度から,通ソも他ソサイエティに続いて,研究会参加の一括年間登録がスタートしました.コロナ禍で研究会は7月現在,オンライン開催が続いていますが,聴講者側としては,一括年間登録により通ソ内の研究会を渡り歩き,ピンポイントで研究発表を聞ける状態にあり楽しむことができます.また,通ソでは2018年度から分野横断の研究会に力を入れており,私自身,それを通じて知り合った方々の研究発表を見つけると,オンラインで技報を読み,発表を聴講するようにしております.横断型研究会のお陰で,研究テーマが分野を超えて横方向に広がり,異なった視点での研究が行われていることを実感しており,大変すばらしいことであると思っております.

 一方で,研究会で発表する側にはオンラインで戸惑っている方もいらっしゃいます.私も経験がありますが,聴講者の顔が見えない,反応がないことに,プレゼンを行う立場では不安や寂しさを感じています.今後は聴講者メリットを考えて,研究会のオンライン開催が部分的にも続くことになろうかと思います.その際,発表者メリットを対面方式程度に維持,あるいはそれ以上に向上させるためにバーチャルに臨場感を与えるなどの工夫が必要になってきます.アンテナの送受可逆性と同様,発表者と聴講者の双方の立場を理解した上で,双方がhappyになる研究会スタイルの構築が今後の課題となります.更に,研究会が論文プロデューサという意識をもう少し強く持つことによって,論文化へのアシストをすることができれば,すばらしい研究内容を本会の論文誌で読める楽しみが増え,新しい知識の獲得,自身の研究への参考とすることができます.そうなれば,自分の研究も読んでもらおうと投稿が増えるようになります.

 研究会で発表する立場と聴講する立場,論文投稿する立場と論文購読する立場,大きな想像力でもって双方の異なる立場を可逆的に慮れば,人間の関わるシステムは進化,発展していくはずです.学会は,このような議論や試行を行うことができる場です.楽しく積極的に利用しながら,皆様と一緒に作り上げていきましょう.


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