解説 計測指向機械学習と嗅覚センシングの新展開

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 解説 

計測指向機械学習と嗅覚センシングの新展開

Measurement-oriented Machine Learning and Evolution of Olfactory Sensing

鷲尾 隆 今村 岳 吉川元起

鷲尾 隆 正員 大阪大学産業科学研究所

今村 岳 物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点

吉川元起 物質・材料研究機構機能性材料研究拠点

Takashi WASHIO, Member (The Institute of Scientific and Industrial Research, Osaka University, Ibaraki-shi, 567-0047 Japan), Gaku IMAMURA, Nonmember (International Center for Materials Nanoarchitectonics, National Institute for Material Science, Tsukuba-shi, 305-0044 Japan), and Genki YOSHIKAWA, Nonmember (Research Center for Functional Materials, National Institute for Material Science, Tsukuba-shi, 305-0044 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.104 No.1 pp.43-48 2021年1月

©電子情報通信学会2021

A bstract

 IoT社会の様々なセンシングニーズの高まりとともに,複雑な原理を用いる先端計測技術の開発が盛んである.一方,近年の機械学習・統計的推定は,不完全で複雑な情報から高精度・高信頼な推定を行うことにたけている.これらを背景に,情報科学と先端計測技術の融合に基づく,従来限界を超えた計測の可能性が開けつつある.最近,筆者らはセンサの計測過程モデルから匂いを逆推定する機械学習を用い,入力ガス流量変化に極めてロバストで流量制御が不要な超小形嗅覚センサを実現した.この紹介とともに,計測問題に適した機械学習を探求する計測指向機械学習を論じる.

キーワード:計測指向機械学習,先端計測,計測過程モデル,嗅覚センサ,超小形ロバストセンサ

1.は じ め に

 科学や産業,社会の隅々に,ネットワークにつながれたセンサが普及するIoT社会が到来しつつある.そこでは,情報通信処理技術に並んで,実世界から必要な情報を収集する計測技術が中心的な役割を演じている.センシングデバイスや計測分析デバイス,それらを実装する各種装置の需要は今後ますます増大し,それらの開発と生産を担う計測装置産業は今後重要性を増していく.

 計測装置産業では,従来型センサによる計測技術にとどまらず,全く新しい対象を測る計測技術や,より高精度,高信頼,ロバストで,かつコンパクト,低コストなセンシングを可能とする計測技術など,いわゆる先端計測技術が多く必要とされている.そのため現在,幅広い基礎科学,応用科学の分野において,種々の先端的な計測デバイス・装置の研究開発が行われている.

 これらの多くは,極限の低濃度物質,極限の微小な分子や生体,極限の解像度の画像や物質分布,極限の遠距離物体,極限の高頻度・短時間,極限のコンパクト性など,様々な極限条件での計測を目指すものが多い.そのため,これらは極端な条件下で複雑な過程から成る計測原理を用いる.更に計測対象も,時間・空間の両面で大きな揺らぎを含み,かつ高次元な自由度を有する複雑なものであり,得られる計測情報は多くの雑音を含みかつ不完全であることが多い.したがって,不完全な大量情報からの対象推定や,複数測定情報の統合,事前知識による補完など,高度な推定処理が必要とされる.

 一方,情報科学において,高度な数理や統計,計算理論に基づく機械学習・統計的推定の原理・アルゴリズム研究が急速に進展している.これらは,上記の先端計測の条件で高精度,高信頼な推定を行うことに向いている.

 したがって,機械学習・統計的推定の原理・アルゴリズムと先端的計測デバイス・装置を融合し,IoT社会のニーズを満たす新たな先端計測技術が実現できる可能性は高い.しかし,このような融合研究開発は,世界的にも個別の計測分野で散発的に行われているにすぎず,先端計測を指向する機械学習・統計的推定の体系的研究はほとんど行われていない.


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