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解説
音響信号処理を用いたクレーンの振れ止め制御
Anti-sway Control for Cranes Using Acoustic Signal Processing
A bstract
クレーンで荷を運搬する際,オペレータには荷振れの抑制が要求され,長年の経験によって培われた熟練技術が必要とされる.しかし,近年,熟練技術を持つオペレータの不足が問題となっており,今後の少子高齢化時代にはますます深刻化するものと懸念されている.そのため,クレーンの操作における荷の振れ止めの自動化(振れ止め制御)が注目されている.本稿では,クレーン振れ止め制御に関する研究の現状,課題などを解説する.また,信号処理と制御の融合の観点から,複数マイクロホンを用いた音響信号処理による,クレーン振れ止め制御のための振れ角センシング技術を紹介する.
キーワード:クレーン,振れ止め制御,振れ角センシング,複数マイクロホン,音響信号処理
クレーンは建設現場,工場,倉庫,港など様々な場所で荷の運搬に利用されている.クレーンで荷を運搬する際,オペレータには荷振れの抑制操作が要求され,長年の経験によって培われた熟練技術が必要とされる.しかし,近年,熟練技術を持つオペレータが不足しており,今後の少子高齢化時代にはますます深刻化するものと懸念されている.この問題を解決するため,クレーンのメーカをはじめとする産業界や,大学などの学術界においてクレーンの振れ止め制御が盛んに研究されている.その歴史は非常に長く,国内外で多数の研究成果が発表されているため,全ての研究事例を紹介することはできないが,一部だけ紹介すると国内の文献(1)~(9),海外の文献(10)~(19)などが挙げられる.クレーンに関連する研究は,本会で発表されるケースはほとんどないことから,本会誌の読者にはなじみの薄い研究分野に思えるかもしれない.しかしながら,クレーンの振れ止め制御の開発には,電子情報通信技術も重要な役割を担っており,特に音響工学や信号処理の新しい応用分野となり得ることを本稿では解説する.
振れ止め制御の実用化には「振れ角」の推定が必要不可欠である.筆者は,振れ止め制御の実用化の鍵が,つり荷の振れ角を計測する「センシング技術」にあると考え,音響信号処理によるアプローチを提唱している.本稿では,クレーン振れ止め制御に関する研究の現状,課題などに加え,信号処理と制御の融合の観点から,この振れ角センシング技術について解説する.
クレーンは細かく分類すると様々な種類(呼称)が存在するが(20),構造の観点からは2種類に大別できる.一つは,図1のように「ジブ」と呼ばれる機構の先端部分からワイヤロープを延ばし,ワイヤロープの端につり荷用のフックを持つタイプのクレーンである.ジブは上下に起伏運動可能であり,振れ止め制御はジブの起伏動作によって実現される.図1のようなクレーンが建設現場に設置されているのを見かけたことがあるだろう.これはタワークレーンと呼ばれる.また,図2のようにクローラで移動可能なクローラクレーンも,構造上はタワークレーンと同じく,ジブ,ワイヤロープ,つり荷用フックから構成されている.
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