巻頭言 情報通信はCOOLである

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Vol.104 No.10 (2021/10) 目次へ

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巻頭言

情報通信はCOOLである Telecom is Cool.四国支部長 神野正彦

 自分が普段こんな笑い方をするのだということを生まれて初めて知った.コロナ禍において広まったZoomの画面に映るリアルタイムの自分の顔のことである.自分の声が思っているより甲高いらしいということは,父親が謡の練習用に持っていた当時としては珍しかったテープレコーダの存在により幼い頃に既に知っていた.だからなのか,テープレコーダで自分の声を聴くのが好きではなかった.声道から骨を介して聴覚器官を振動させる骨導音の伝搬損が高周波数ほど大きいことが,その原因であることを知ったのはつい最近のことである.声が甲高いのは背が低いから仕方がないと思っていたのだが,このコロナ禍でオンライン国際会議に自分の講演録画を提出することが多くなり,甲高いというよりはかすれてモゴモゴしていることを発見した.家族からいつも言われていることなのだが,実際に耳にして納得した.現実の自分の顔と声にようやく慣れてきた今日この頃である.

 以上はコロナ禍におけるどうでもよい私的な発見であるが,本稿の主題でありこの1年半で改めて発見したのは,情報通信技術の強靭さと頼もしさである.昨年4月に緊急事態宣言が発出されるや,産業界は在宅勤務へ大学は遠隔講義へと舵を切り,今やオンラインによるビジネスや教育は日常になった.当初は多くの混乱と制約があり,その収束に向け情報通信業界並びに社内・学内IT部門等において献身的な努力が払われたからこそではあるが,この急激な通信需要増に対して我が国の情報通信基盤は見事に持ちこたえた.もちろん臨場感や安定性に更なる改善の余地はあるものの,リアルタイム・多地点・双方向・パーソナル・動画像通信がまずまずの料金で提供されていると言ってよいのではないか.今年6月に開催された光通信分野の国際会議における“Lessons Learned: Networks 2020 Status and Next Steps”という特別セッションでも,ロックダウンが宣言された地域では最初の4週間でピークトラヒックの30~60%増が観測されたが,通信業界はこれに数Tbit/sレベルの帯域増強とクラウド・CDNの利用により,QoEを損なうことなく対処したことが報告された.別の講演者はこれに関連して“Wow, telecom is cool again!”と表現した.

 “Cool again!”,解釈は人により様々であろうが,筆者はこれに自身の二つの気分を重ねて,いたく共感を覚えた.情報通信は元々,医療,エネルギー,食料,公共サービスなどの分野と同じく,社会を直接的に支えるという意味においてEssentialであるが,ICTという言葉もさすがに20年前の輝きを失い,学生からの人気も高いとは言えない.しかしこの1年半を振り返ると,情報通信分野に携わる技術者・研究者は(密かに)胸を張ってよいのではないだろうか,そして教育者は情報通信コミュニティがいかにパンデミックと対峙し社会を支えているか,誇りをもって学生に教えるべきではないか,と少々熱くなる自分を発見するのである.

 さて,筆者の大学では昨年度から情報通信系の新入生向けに本会会誌のオンライン閲覧を利用した自由研究とジュニア会員加入奨励を始めた.コロナ禍において,大学に入学した実感を持ちづらい新入生のモチベーションの向上が目的である.昨年度は対象新入生の38%がジュニア会員となり,学会入会により大学生になった実感が得られたというアンケート回答を多数得た.本学のこの取組みは四国支部運営委員会でも情報共有している.新入生のジュニア会員入会を研究室配属後の学生員入会へとつなげ,本会と若手研究者・技術者との関係強化の一助とすることができるかが今後の課題である.


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