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我々の身の回りにおいて情報や計算を扱うガジェットがあふれるようになってきたのには,ひとえに近年の情報科学の発展によるところが大きい.その情報科学において従来独立に進化してきたように思われていた二つの領域,量子情報処理と機械学習が近年急速に接近し,非常に魅力的な研究領域が生まれ,目覚ましい発展を遂げている.しかし,両分野共に,その長い研究の歴史から広範囲にわたる深い専門性が追求されてきたことにより,その融合領域の発展は概観するだけでも容易でないかもしれない.そのような動機から,本特集では,融合領域である量子機械学習を中心とする両分野の接近する領域において,第一線で活躍される専門家に基礎となる数理や近年の動向を総合的に解説して頂くこととなった.
1章:人間の脳の情報処理方法にヒントを得た学習方式を機械学習分野へ融合する試みとしてリザバーコンピューティング技術が高い期待を集めており,様々な実装方法が提案されてきた.その中で近年,量子ダイナミクスを利用した量子リザバーコンピューティングと呼ばれる技術が登場した.この量子リザバーコンピューティングとはどのようなものなのか,第1章では,その基礎原理から最近の動向,現時点での課題・今後の展望を紹介頂いた.
2章:量子計算機やその上へ実装する量子アルゴリズムの研究開発において,その性能を理論的な解析にとどまらず実地的に評価が期待される場面がしばしばある.そこで,このような期待に応えるべく,量子計算機を通常の古典計算機でシミュレートするソフトウェアが求められている.第2章では,量子計算機のシミュレート手法に関して,その原理,近年の発展やユースケースについて解説頂いた.
3章:量子多体問題は多体相互作用によって生まれる新たな秩序を解明する上で非常に重要な課題であり,新たなデバイスや量子情報処理への応用が期待されている.第3章ではこの量子多体問題の基礎と近年の新たな動向として発展している機械学習を用いた戦略を紹介頂いた.
4章:コインを床に投げたとき,それが表になったのか裏になったのかは,実際に床に投げたコインを見て裏表どちらになっているかを観測することで確認することができる.我々が日常的に体験する物理現象の多くは,このように決定的なものとして捉えることができる.一方で,量子論に従う現象から何らかの情報を読み出す際には,その現象に対して確率という概念が重要になってくる.第4章では,量子論に従う現象からどのように情報を効率的に読み出すことができるか,基本となる数理,応用,近年の発展,課題や問題を紹介頂いた.
5章:量子計算機のハードウェアの発展において,誤り訂正機能を持たないデバイスの実現が徐々に実現されつつあり,それらを機械学習・最適化へ応用する試みがなされている.第5章では,特に近年注目を集めている変分量子アルゴリズムを中心に,この誤り訂正機能を持たないハードウェアを利用した量子機械学習の近年の発展,そのアルゴリズムの原理を広く解説頂いた.
6章:現在利用可能な量子コンピュータは雑音による影響を避けて通ることができない.どのように雑音の影響を軽減することができるのか,また雑音を考慮した上で量子コンピュータの性能を比較するにはどうしたらよいのか,第6章では量子コンピュータの各種性能を引き出す技術の解説やその性能を引き出す指標を紹介頂いた.
7章:量子計算機と古典計算機にはどのような能力の違いがあるのか.量子計算機は古典計算機と比べて何らかの意味で本質的に高い計算能力を持っているのではないかと我々は期待を持ってしまう.このような素朴な問いに対して,第7章では計算量理論の観点から量子計算においてできることやできないことを明らかにして頂いた.更に量子計算でできることの例として量子アルゴリズムに重大な洞察を与えてくれる量子特異値変換の数理と応用を紹介・解説頂いた.
8章:現在利用可能な誤り耐性なしの量子計算機をどのように機械学習へ適用することができるのか,第8章ではデータを効率的に量子計算機に読み込ませ,機械学習の実問題へ応用できるのかを解説頂いた.特に時系列データ解析,分類問題,敵対的生成ネットワークなどを例に機械学習と量子計算機の接点を明らかにして頂いた.
最後に,多忙な中,本特集の原稿を執筆頂いた著者の皆様,編集に携わった特集編集チーム及び学会事務局の皆様に深く感謝します.この場をお借りし深く感謝致します.
特集編集チーム
中野 允裕 堀山 貴史 澤畠 康仁 藤沢 匡哉 荒川 元孝 荒木 徹也 岩田 哲 小川 祐樹 熊木 武志 高取 祐介 東野 武史 平井 経太 宮田 孝富 山口 真悟 山脇 大造 米澤 和也
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