特集 1. 量子リザバーコンピューティングの新展開

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Vol.104 No.11 (2021/11) 目次へ

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枠

量子機械学習

特集

     1.

量子リザバーコンピューティングの新展開

Progress in Quantum Reservoir Computing

チャン クオック ホアン 中嶋浩平

区切り

チャン クオック ホアン 東京大学大学院情報理工学系研究科

中嶋浩平 東京大学大学院情報理工学系研究科

Quoc HOAN TRAN and Kohei NAKAJIMA, Nonmembers (Graduate School of Information Science and Technology, The University of Tokyo, Tokyo, 113-8656 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.104 No.11 pp.1134-1141 2021年11月

©電子情報通信学会2021

abstract

 量子リザバーコンピューティングは物理システムの量子性を利用し,簡単な学習戦略と組み合わせることで,機械学習タスクへの優れた性能を発揮する.このような従来と異なるコンピューティング手法への関心は近年著しい高まりを見せている.それは,実装に適した多様な量子プラットホームが利用可能になったことや複雑な量子系の研究における理論的進歩が要因となっている.本稿では古典タスクや量子タスクを考慮した量子リザバーコンピューティングの幅広い可能性を示す.量子リザバーコンピューティングの動作原理から物理実装まで最近の研究動向を紹介し,未解決課題と今後の展望について議論する.

キーワード:量子機械学習,リザバーコンピューティング,物理リザバーコンピューティング,量子リザバーコンピューティング

1.は じ め に

 機械学習(ML: Machine Learning)では入力と出力の関係が不明なものに対して,その関係を汎化する関数を得るために,学習機における変更可能なパラメータの調整を行う.この学習機はコンピュータ上で扱いやすく,できるだけ広い豊富な表現能力を有することが望まれる.そのため,近年のML研究では非線形変換を伴う人工ニューラルネットワーク(NN: Neural Network)を深層化することでより複雑な変換を達成する.一般に,人工NNはノイマン形コンピュータ上で実装されているが,人間の脳の計算能力に近づくことを目指す非ノイマン形のニューロインスパイアードコンピューティング分野から近年,多大な期待が集まっている.背景にあるのは脳のようにエネルギー効率の良い情報処理デバイスを構築することである.そのため,物理基板の設計に直接脳における計算の動作原理を結び付けようとするニューロモーフィックデバイスの開発の試みが盛んに行われている(1),(2)

 そうしたMLの分野と非ノイマン形の情報処理手法の融合を実現する一つの有力なアプローチがリザバーコンピューティング(RC: Reservoir Computing)である(3)(5).RCは脳の情報処理方法にヒントを得たリカレントNNの学習法の一種であり,入力によって駆動されるリザバーと呼ばれる高次元の力学系で構成される.リザバーは減衰記憶特性を持つ過渡的なダイナミクスを生成し,非線形処理を行うことができる(6).この方式は複雑な時間構造を持つリアルタイム情報処理に利用できるため,記憶を必要とするML問題に適している.従来のRCはコンピュータ上で実装され,例えば,内部の結合をランダムに固定した人工NN(Echo State Network, ESN)(7)(図1(a))やスパイキングNN(LSM: Liquid State Machine)(4)などがある.更に,非線形性を持った大自由度力学系であればリザバーの物理実装の候補として挙げられる.これらの実装は物理リザバーコンピューティング(PRC: Physical Reservoir Computing)の分野で研究され,例えば,水面のダイナミクス,フォトニクス,スピントロニクス,ニューロモルフィックチップに構造化されたナノマテリアルなどが物理リザバーとして提案されている(8)


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