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量子機械学習
8.
量子機械学習におけるデータロード,回路設計,そして観測
Data Loading, Circuit Optimization and Measurement in Quantum Machine Learning
誤り耐性を有する理想的な量子計算機は,重ね合わせの原理などの量子力学の性質を利用することで,従来形計算機より少ないリソースで特定の計算タスクを実行する.しかし,現在を含め当分の間は,誤り耐性を持たない量子計算機のみが利用可能である.このような限定された状況で何ができるかについて,変分量子回路法をはじめとし,近年盛んに研究がなされている.機械学習もそのターゲットの一つである.特に機械学習では,データをいかに効率的に量子計算機に読み込ませるか(ロードするか),ロードしたデータをいかに効率良く量子回路で計算するか(量子回路設計),そして計算結果をいかに取り出すか(観測の最適化)が,量子計算機の優位性を保証するための鍵となる.本稿では,この三つの問題を軸に,筆者らの最近の研究を幾つか紹介する.
キーワード:量子機械学習,データロード,データ分類,敵対的生成ネット,量子回路設計,量子観測最適化
いわゆるゲート方式の量子計算機(以降,単に量子計算機と呼ぶ)は,従来形計算機(以降,古典計算機と呼ぶ)より少ないリソースで特定の計算タスクを実行する.このような「量子優位性」が理論的に保証されているアルゴリズムが幾つか知られており,Harrow, Hassidim, LloydによるHHLアルゴリズム(1)はその一つである.これは線形方程式を解くというタスクを,メモリサイズ・演算回数の両面で古典計算機と比べて指数的に少ない計算リソースで実行する.機械学習ではこういった線形方程式由来の演算を行う場面が多いため,必然的に,機械学習も量子計算機を適用するターゲットに入ったわけである.
もちろん,上記は誤り耐性を有する理想的な量子計算機があればの話である.一方で,ここ数年の間に量子計算機の実機開発について目覚ましい進展があり,誤り耐性はないが数十量子ビットの量子計算機が実現され,クラウド利用可能な状況にまでなっている.これはNoisy Intermediate Scale Quantum(NISQ)デバイスと総称される(2).NISQは誤り耐性量子計算機が出現するまでの時間稼ぎかというと,そうではない.理想的な巨大量子回路をNISQで動くような小規模量子回路(たち)で近似できるか,統計量から雑音の影響を差っ引くにはどうすればよいか,小規模な量子回路を使い回すなどで何らかの量子優位性が出せるか,等々,そういった重要な基礎研究が大いに発展した.特に,そのような量子計算研究の新しい潮流の一つに,量子変分法がある.量子変分法とは,チューニング可能なパラメータを含む比較的小規模な量子回路で演算を行い,目的に応じてそのパラメータを更新する方法である.これは機械学習でニューラルネットワークを学習するプロセスに似ているため,この方向つまりNISQ機械学習とも呼べる方法論について,実験含め(3),多くの研究成果が得られている.
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