小特集 1. 人の思考に寄り添ったデータ解析技術への道

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データサイエンスにおけるデータ抽象化によるデータ理解へのアプローチ

小特集 1.

人の思考に寄り添ったデータ解析技術への道

Toward a Data Analysis Methodology with Much Consideration of the Way of Human Thinking

宇野毅明

宇野毅明 正員 国立情報学研究所情報学プリンシプル研究系

Takeaki UNO, Member (Principles of Informatics Research Division, National Institute of Informatics, Tokyo, 101-8430 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.104 No.3 pp.192-196 2021年3月

©電子情報通信学会2021

Abstract

 本小特集では,CREST課題「データ粒子化による高速高精度な次世代マイニング技術の創出」における研究成果を紹介する.本課題は,データや認識ルールの意味やメカニズムを理解しやすくする,思考支援を行いやすくする解を生成するようなデータ解析技術の開発を目指し,数理モデルから可視化応用までの技術を横断的に開発するものである.粒子と呼ぶ,データの局所的な抽象構造を研究の中核コンセプトとし,粒子を明確化することで質高く構造抽出を行うデータ研磨技術を提案する.データ解析の現場で解析結果の意味解釈に続いて行われる,背景やメカニズム,因果など仮説やストーリーの構成に資する,質の高い解を創出するアルゴリズムを解説する.データ解析技術の数理,モデル,応用,可視化などの技術とともに,これらを活用する人材教育までを網羅して解説する.

キーワード:データマイニング,クラスタリング,アルゴリズム,抽象化,データ解析

1.は じ め に

 近年のAIブームのけん引役は間違いなく深層学習の発達であろう.今までは不可能であった様々な事柄,画像や音声などの認識が可能になり,それらが予測に応用されている.しかし一方で,自動運転における事故の責任の所在に関する議論などをきっかけにした「AIのブラックボックス化」に対する懸念が大きな問題として認識されている.人間の意思決定には,提示された選択肢の単なる出来の良さだけではなく,総合的な理解,納得や信頼などが不可欠である.良い例として,コスト的に非常に優れた解を見つけ出すことができる,最適化技術が,ナビゲーションやITシステムの自動化など,人の重大な決定とは遠い場面でのみ盛んに使われていることが挙げられるだろう.以前は,最適化の使いにくさは,暗黙知の考慮がないためであると言われてきたが,人間も暗黙知を全て考慮しているわけではなく,質の良い解を得ているとは言い難い.単に,運用しやすい,調整がしやすい,理解しやすい,ということが,現場や経営判断での大きな価値観であろう.運用・調整しやすいということは,つまり解の大まかな構造や,各所の変更の波及,不足や余分が把握しやすいということが大きな要因であり,理解とは,解がなぜそのようにできているのか,因果やメカニズムが分かるということであろう.

 CREST課題「データ粒子化による高速高精度な次世代マイニング技術の創出」は,2015年から2020年まで,AIのブラックボックス化が大きな話題となる前からこれら問題意識の下,遂行された研究課題である.直接的な求解を目指す既存研究とは異なり,「粒子」と呼ぶ抽象化された局所的意味構造を,データから群として抽出することで,意味の把握を容易にしてデータ解析の質を上げるというコンセプトに基づき,「データ研磨」を代表とする新しいアルゴリズム群の開発とその応用手法を,数理モデルからヒューマンコンピュータインタラクションまでを含めて総合的に開発した.


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