巻頭言 変われない人間,変貌する環境,ICTの役割

電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
Vol.104 No.3 (2021/3) 目次へ

次の記事へ


巻頭言

変われない人間,変貌する環境,ICTの役割 Unchanging Human Nature, Changing Environment, and the Role of ICTエレクトロニクスソサイエティ会長 津田裕之

 人類百万年,現生人類として数万年の間,私たち人間は,日々変わらぬ生活をしてきたと思われます.ところが,近現代において,人間は急速に科学技術を発達させ,身近な生活環境から地球規模の環境まで改変してきました.一方,生物としての人間は短時間に変化しないので,様々な「不整合」が生じていると思います.人間は,身体を制御する脳と五感をつかさどる知覚器官を備えていますが,自らが変革した環境に対応するようにできていません.

 ICTに関わることでは,情報の量が爆発的に増大し,人間の情報入出力,処理能力をはるかに超えていることが「不整合」として挙げられます.私たちは多くの情報にアクセスすることによって,誰もが知の巨人となり得ます.最近では,美術館をオンラインで訪問して絵画が高精細画像として鑑賞可能になるなど,アクセス可能な情報も増大しています.しかし,膨大な情報の中から適切な情報を取捨選択することは,人間には不可能です.インターネットれい明期から検索エンジンが重要なツールであり,そこを端緒として巨大企業が生まれたことも必然であると思います.人間が受容できるように情報を整理し,適切な前処理を行って,瞬時に送り届けるICTの重要性はますます高まります.また,人間の知覚能力は個人差が大きいですが,機械側でその差を埋めるべく,人・機械インタフェースの更なる改善に向けた研究開発も不可欠であると思います.特に,高齢化が進む日本の中で,高齢者を疎外しないように,ICTの進展が必要と思います.

 私は,大学で教育に携わる中で,現在の情報環境に合わせた教育の改革も必要であると日々感じています.人間の能力を凌駕する情報処理機器と世界中の知にアクセス可能な環境に対する「不整合」を減ずるべく,学校で人間の学ぶべき内容を再検討すべきではないでしょうか.何を覚えて理解しておくべきか.語学教育は,「使える」ことを重視して内容が変わりましたが,機械翻訳技術が向上する中で整合性がとれているでしょうか.私は,語学は文化の礎であることから,その国や地域の「文化」を理解することに照準を合わせるべきであると思います.また,ICTで世界がつながる中で,各国の教員とオンラインで接続した多言語学習など様々な取組みが可能です.翻訳技術が象形文字や古語にも対応していることを考えると,歴史や古文の教育にも影響を与えそうです.他方,数式処理のソフトウェアを活用できれば,数学公式集にあるほとんどの数式処理や計算が可能で,2D/3D表示は理解を助けます.もちろん,正しく活用するには,数学的概念をあらかじめ修得している必要があります.かつては初等教育における電卓利用問題で議論がありましたが,数式処理ソフトウェアの利用は更に大きな検討事項ではないでしょうか.小学校から高等学校に至る数学教育において,活用方法を明らかにする時期に来ています.

 ICTの発展と人間の関係について思い付くままに述べました.電子情報通信学会においては,各ソサイエティとグループが協調して,様々なアプローチでICTに関わる「不整合」をICTを利用して解決できるよう,今まで以上に議論し検討する場を提供していくべきと思います.


オープンアクセス以外の記事を読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。


続きを読む(PDF)   バックナンバーを購入する    入会登録

  

電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。

電子情報通信学会誌 会誌アプリのお知らせ

電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード

  Google Play で手に入れよう

本サイトでは会誌記事の一部を試し読み用として提供しています。