小特集 コミュニケーションロボットの現状 小特集編集にあたって

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Vol.104 No.4 (2021/4) 目次へ

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小特集

コミュニケーションロボットの現状

小特集編集にあたって

編集チームリーダー 掛谷英紀

 産業用ロボットの導入が進んだ1980年前後の第1次ロボットブーム,犬形ロボットAIBOがヒットした2000年前後の第2次ロボットブームに続き,2015年前後は第3次ロボットブームと位置付けられることが多い.

 こうした技術の流行の浮き沈みはあらゆる分野で見られる.今隆盛を極めているニューラルネットワークの発展形としてのディープラーニングも,パーセプトロンが盛んに研究された1960年代を第1次ブーム,バックプロパゲーションによる多層パーセプトロンの学習が流行した1990年前後を第2次ブーム,そして今を第3次ブームと位置付けることが多い.第2次ブームでは家電の制御など,一部で産業応用が試みられたが,定着はしなかった.それを乗り越えての第3次ブームを機に,ディープラーニングは既に広い産業分野で欠かせない要素技術に成長している.

 ニューラルネットワーク分野においては,第2次ブームが去った後も研究は地道に続けられていた.第2次ブームの火付け役となったバックプロパゲーションの論文の第二著者であったヒントンは,ブームの谷間も研究を続け,ディープラーニングで大きな成果を得るに至った.その普及を,ゲーム用に開発された並列計算エンジンであるグラフィックボードの進化と低価格化が後押ししたことはよく知られるところである.

 ロボットの場合,最も産業として定着したのは,今のところ第1次ブームで開発された技術であるという点は興味深い.第2次ブームと第3次ブームは,共に工場ではなく人間の生活空間で活躍するロボットの開発を目指したが,残念ながら十分な市場を獲得するには至らなかった.

 ニューラルネットワークとの対比で考えれば,今必要なのは,来るべき第4次ブームで産業的成功を収めるために必要な要素技術を開発することであろう.更に,第3次ブームの失敗を振り返ることも重要である.本小特集は,こうした問題意識に基づいて編集されている.

 第1章は,産業的観点から第3次ロボットブームを振り返る解説記事となっている.サービスとして定着したもの,しなかったものを対比し,その違いを検討した興味深い内容となっている.

 第2章から第6章は,コミュニケーションロボット分野の研究者の手による,最新の研究成果を紹介した内容となっている.そのうち第5章を除いて,科学技術推進機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)の「人間と情報環境の共生インタラクション基盤技術の創出と展開」領域(研究総括:間瀬健二名古屋大学教授)のメンバーに執筆を依頼している.

 第2章では,「心を読むインタラクション」と題して,人間が人工物に対して持つ心的状態の想定について解説がなされている.第3章「ソーシャルタッチ――人とロボットの触れ合いインタラクション――」では,ロボットとのソーシャルタッチを伴うインタラクションが人々の印象や行動に与える影響について報告がある.第4章「ソーシャルシグナルを共有するソーシャルロボット」では,ソーシャルロボットの発達支援やコミュニケーション支援への応用について議論されている.第5章「情報提供ロボットの実証実験例と今後の課題」では,情報提供ロボットの実証実験の事例について報告がある.最後に,第6章「街角環境におけるコミュニケーションロボット」では街角でのコミュニケーションロボットの研究開発状況について報告がある.

 来るべき第4次ロボットブームがいつ到来するのかは今のところ全く予想がつかないが,本小特集がそれを展望する一助になれば幸いである.

小特集編集チーム

 掛谷 英紀   川田 亮一   髙橋 桂太   多屋 優人   中井  満   中島  諒   野中 誉子   比嘉 恭太 


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