巻頭言 パンデミックのSDGsへの影響と学会の社会的役割

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Vol.104 No.5 (2021/5) 目次へ

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巻頭言

パンデミックのSDGsへの影響と学会の社会的役割 Impact of Pandemic to SDGs and Social Responsibility of Academic Society監事 鈴木正敏

 新型コロナウイルス感染症は私たちの日常を一変させましたが,その中で,テレワーク,オンライン授業,遠隔健診等,ICTはビジネスや社会生活を継続する上で不可欠な社会インフラであることが再認識されました.現在,ICTは一次産業からサービス業まで,更に,経済や法律等の人文社会系にも幅広く浸透し,DX(Digital Transformation)を加速し社会を変革する原動力となっています.それゆえ,グローバルには,パンデミックによりICTの普及状況による格差が更に拡大しました.

 国連は昨年,持続可能な開発目標SDGs(Sustainable Development Goals)の中間報告SDGsレポート2020において,パンデミックがSDGsに与えた影響を報告しました.COVID-19は水,電気,ICTなどの基本インフラが未整備の国々に甚大な影響を与え,貧困の解消,保健・福祉の充実,質の高い教育,国・ジェンダ間の格差是正など,これまでの成果を数年分も後退させました.インターネットについては,先進国ではほぼ普及していますが,後発開発途上国の平均普及率は僅かに19%であり,世界の90%の学校が閉鎖された昨年,約5億人がオフライン環境下で学習の継続が困難でした.筆者は研究職に加えて公益財団法人の理事長を務めておりますが,学校閉鎖が続くネパールにおいて,オフライン下でも学習を継続するためeラーニング教材入りのタブレットを各家庭に配布し,また,UNICEFと共同で人口の16%を占める視聴覚障害者向けに,音声読み上げ機能付きのテキストや手話ビデオ入りの電子教材をPCとともに提供しました.私たちに身近なICT関連技術を広く普及させることが,教育や生活の質の向上とパンデミックにも対応できるレジリエントな社会の実現に貢献することを実感しました.もう一つの重要な指摘は,人々の活動制限により温室効果ガスが6%削減されたものの,世界目標の年率7.6%の削減は実現できなかったことです.世界大恐慌以来の経済活動の停滞時でさえも目標は達成されず,このままでは地球温暖化による気候変動の破壊的な影響が現在のパンデミックをはるかに超えると警鐘を鳴らしています.

 SDGsの実現には,国,企業,市民,そして学会も,それぞれの役割を果たす必要があります.本会は,DXの加速やレジリエントな情報通信基盤の整備などを通してSDGsに貢献していますが,世界の喫緊の課題であるカーボンニュートラルに向けても,マテリアルから情報通信基盤までの幅広い分野で一層の技術革新による貢献が期待されます.これらのSDGsのディジタルとグリーンに関する重要施策を技術的にけん引にするとともに,社会課題に対するICTの役割等を広く伝えることも,ICTの中核学会としての本会の重要な社会的役割です.例えば,地域との関わりが深い支部と地方開催が多い研究会が連携し,青少年,市民,地元企業の人々に向けたSDGsやSociety5.0の講演やICT教育等を実施することも有効だろうと思います.海外支部と国際会議の連携の可能性もあります.国内外の17の支部と100以上の研究会が連携した外向けの社会活動は,一般の人々との接点を一気に面的に広げ,本会の認知度向上や活性化にもつながるだろうと思います.

 未来社会に貢献する学会として,ICT普及・啓発などの社会的活動を通して社会と直接関わる機会を増やすことが,本会の学術的価値に加え社会的な価値を向上させ,若者,人文社会系を含む他分野,及びアジア諸国への裾野拡大につながり,長期的には本会の持続的発展に寄与するものと思われます.


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