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小特集
ICTによる農林畜産業への取組
――回路とシステムの観点から――
編集チームリーダー 佐藤弘樹
従来の農林畜産業にICTを活用し,生産性をより改善していく取組が近年注目されている(本誌小特集 農業とエレクトロニクス,Vol.104, No.2, pp.103-129, Feb. 2021.).この背景には,熟練者による人手作業が多く,負担の軽減が課題になっていた従来の農林畜産業において,センシングや通信技術の発展や安価なフィジカルコンピューティングの普及により,以前より生産性向上が容易になったことがある.例えば気象環境センサ,画像センサ等から得られた情報に対して,AIを含む様々な解析を行い,その結果に基づき温度,湿度管理を行ったり,ロボットなど各種機器を制御することで自動作業を行ったりする等が挙げられる.その一方で,一般的な電子,情報,通信に携わる研究者には,農林畜産業はなじみが深いとは言えない.このような背景から,農林畜産業に関するシンポジウム(2020年総合大会「AI-1 回路とシステムの応用としての農業」,2020年ソサイエティ大会「AI-1 農畜産業における回路とシステムの応用」)を開催し,いずれも好評を得た.本小特集はこれらのシンポジウム登壇者を中心にした著者に,農林畜産業へのICT導入の取組について,様々な視点で執筆頂いたものである.
第1章では,本小特集の概論的内容を,「施設植物生産現場」というキーワードで解説している.農業におけるICTの活用において,過去どのような取組がなされていたか,その歴史的背景と現状の課題認識を踏まえた上で,施設植物生産にどのようにICTを活用すべきか,今後の展望が述べられている.本章の内容は「施設植物生産現場」にとどまらず,広く農林畜産業へのICTの活用に当てはまる.
第2章は,植物生育に対する低価格の小形コンピュータ利用の実例として,植物フェノタイピング技術(植物の生理生態反応や成長を定量的に計測・評価する技術)について,シングルボードコンピュータや画像センサを用いたほうれん草やトマトなどの農作物生育特徴量の非侵襲自動連続計測研究の実際について述べられている.
第3章では,施設園芸用の環境測定に関して,近年注目されているMaker的発想で,環境測定用デバイスの自作化について述べられている.過酷な環境下に置かれる施設園芸用デバイスでは,劣化や故障に対するメンテナンスが大きな課題になる.そこで,現場で対応できるデバイス実現に向け,施設園芸向けのセンサユニットを開発・製造し,設計データの公開や農業関係者への講習などを実施した,ユニークな取組について述べられている.
第4章は,農林畜産業へのICT応用として,従来の畜産・酪農では実現が難しかった放牧に対応した牛用モニタリングシステムの開発について述べられている.近年特に注目されているアニマルウェルフェア(AW)という観点で,放牧地における牛の位置や振舞いの把握など,最新の研究動向及び成果が論じられている.
第5章では,農林畜産業への別のICT応用として,自動的に探索し発見した伐倒木をつかみ上げて作業場まで自動搬送する,自律架線集材システムについて,最新の開発事例が紹介されている.市場価値の高い針葉樹を植林してきた日本の人工林政策は本格的な利用期を迎えており,このシステムは作業者の安全確保・負担低減に益するのみならず,国産材の競争力向上にも重要である.画像センシングを用いたエッジ処理を,高性能林業機械による自律架線システムに応用し,実用的な自律集材システムの実現に向けた取組について述べている.
最後に,多忙な中,本小特集の原稿を執筆頂いた著者の皆様,編集に携わった小特集編集チーム及び学会事務局の皆様に深く感謝致します.特に第1章の著者である近畿大学・星岳彦教授,並びにCQ出版・上村剛士氏には,総合大会,ソサイエティ大会及び本小特集の企画段階から様々な助言を頂いた.この場をお借りし,深く感謝致します.
小特集編集チーム
佐藤 弘樹 中村 洋平 堀山 貴史 越田 俊介 荒木 徹也 小川 祐樹 澤畠 康仁 平井 経太 山脇 大造
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