教育優秀賞贈呈

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Vol.104 No.7 (2021/7) 目次へ

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2020年度 第5回 教育優秀賞贈呈(写真:敬称略)

 本会選奨規程第29条(電子工学及び情報通信並びに関連分野における教育実践(学会,教育機関,企業等での教育の実践)において顕著な成果を挙げ,当該分野の教育の発展に寄与した個人)に基づき,下記の3名を選び贈呈した.

新しいタイプの理系博士人材育成のための文理融合型大学院教育の先駆的取り組み

受賞者 神成文彦

 神成文彦君は,1985年に慶應義塾大学大学院工学研究科後期博士課程を修了後,英国ラザフォード・アプレトン研究所等を経て,1988年に同大学理工学部電気工学科に採用され,現在電気情報工学科教授として活躍されています.

 日本は少子高齢化などの課題先進国でありながら,未来を担う博士人材が減少傾向にあるという深刻な問題を抱えています.このことを最重要課題と捉えた同君は,従来の研究者や大学教授を目指す専門性に優れた博士人材だけでなく,多様化・高度化する社会の中で,複合的かつ困難な課題に立ち向かうための俯瞰力と独創力を備え,広く産官学にわたりグローバルに活躍するリーダー人材の育成を進めるべきと考えました.同君は,30年以上にわたる大学院での教育・研究の経験に基づき,その集大成として高度博士人材の育成を狙い,慶應義塾独自の本格的な文理融合教育プログラムを構築し,新しいタイプのリーダー人材の輩出を自らが中心となり推進しています.これまでに20名を超える優れた博士号取得者を輩出し,中央官庁,商社,大企業の新規事業企画職等の道へ進みました.同君は,2011年度にこのプログラムを立ち上げ,2014年度から今日までリーダーとして先駆的なプログラムの企画・運営をけん引し,産官学連携教育システムとして軌道に乗せました.

 同君が推進した博士人材教育は,(1)5年間で文系・理系の二つの修士号と一つの博士号を取得すること(Dual degree制度)で真の文理融合を実現,(2)企業等のメンターによるゼミ/プロジェクト活動により,政策提言等につながる社会発信力を養成,(3)企業/NPO等での国際インターンシップ等による国際性の養成です.

 このように,同君は従来の理工系大学院の高度人材教育を刷新すべく,文理融合教育プログラムを具体的かつ実学として完成させることにより,理工系高度人材の輩出とキャリアパスの多様化に大きく貢献してきました.また,このような経験に基づき,中央教育審議会大学院部会委員として,大学院教育改革の議論にも中心的に参画してきたことからも,同君の功績は明らかであり,理工学の日本最大級の学会である本会教育優秀賞にふさわしいと考えます.

区切


ソフトウェア開発人材育成のための主体的・実践的教育への貢献

受賞者 新津善弘

 新津善弘君は,1978年東北大学大学院工学研究科修士課程を修了後,日本電信電話公社(現NTT)に入社,電気通信研究所に配属されました.以来,ネットワーク構成法の研究,マン・マシンインタフェースの高度化,通信ソフトウェア自動生成などの研究開発に従事し,国内外で多くの研究業績を上げられました.2003年から,芝浦工業大学システム理工学部電子情報システム学科,教授(現在,名誉教授)に転進され,コンテキストアウェア,アドホックネットワーク,サイバーセキュリティ,センサの活用による視覚障がい者支援等の多岐にわたるテーマを多くの学部生・大学院生に対し指導し,創造性豊かな教育を実践されました.

 同君は,情報通信に関わるソフトウェア開発の人材育成に向け,産業界での経験を生かし,学生自身がグループワークにより主体的に現実的な開発手法を体験学習できる教育法を確立しました.本教育法は,ソフトウェア開発全工程を,PBL型教育法として具体化したものであり,異分野の学生においても,当該の指導手法を適用できることが,特筆すべき業績と考えられます.

 本実践的教育法の効果を定量的に分析・評価した結果,ソフトウェア全般のスキルの向上はもちろんのこと,要素技術の適切な組合せが要求される高度ソフトウェア開発においても,スキルの向上が可能なことを明らかにしています.これらの教育成果はソフトウェア教育用の教材執筆,学内外での受賞や工学教育誌への論文掲載にも顕著に示されています.

 本教育法に基づいた授業や卒論・修論指導の結果,この10年間に本会東京支部学生会研究発表会において11名が学生奨励賞を受賞し,研究会の研究奨励賞,論文誌の論文賞及び国際会議における最優秀論文賞等を受賞したことは,本教育法の効果を示しています.同君は,マレーシアからの留学生に対して遠隔授業を実施することで,国際協力にも貢献し,同君の指導を受けた留学生の授業支援を実施した学生は大学から業績賞が授与されています.同君の教育法や活動実績は真に卓越したものであり,本会の教育優秀賞を受賞するにふさわしいと確信し,推薦致します.

区切


学部,大学院,社会人を繋ぐ協働型情報セキュリティ実践教育

受賞者 宮地充子

 情報セキュリティはDX(ディジタルトランスフォーメーション)やGDPR(一般データ保護規則)に基づくプライバシー保護など,経済活動,社会活動の根幹に関わる技術であり,セキュリティ人材の育成は恒常的な課題と言えます.このような背景の下,文部科学省の支援を得て,2012年から大学院生向け教育プログラム「分野・地域を超えた実践的情報教育協働NW-セキュリティ分野(SecCap)」,2016年から学部生向け「成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成-情報セキュリティ分野(Basic SecCap)」,2017年から社会人向け「成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成(ProSec)」が進められました.

 同君は北陸先端科学技術大学院大学在籍中の2012年から,SecCapを実施し,期間終了後も全国の大学院生向け情報セキュリティ教育を継続,50名以上のSecCap生を認定,提供科目の受講者総数は200名を超えます.また,大阪大学大学院工学研究科に転じた後の2016年から,Basic SecCapを実施し,50名以上のBasic SecCap生を認定,提供科目の受講者総数は684名を超えます.

 同君はこのような学部生,大学院生向け実践的情報セキュリティコースの経験を踏まえて,2017年からProSecを実施し,学部生と大学院生と社会人をつなぐ協働かつ実践的情報セキュリティコースを体系的に設計しました.本実践的情報セキュリティコースでは,情報社会の各種課題を世代・組織を超えて協働で解決する体系的な複数のPBL演習も設計しました.設計したコースの社会人受講者総数は26名になります.

 同君は,これまで多数のセキュリティ人材を育成し,育成した学生の多くが産業界や大学の中核人材として,活躍しています.更に,同君の貢献は,情報セキュリティ人材の育成のみならず,育成した学生間の協働ネットワークの構築にもあります.同君が設計した実践的情報セキュリティコースは,分断から協働へとつながる情報社会を実現する実践的情報セキュリティ人材を育成し,世代・組織を超えて構築された人材ネットワークが日本社会全体に与えた功績は極めて顕著であり,本会の教育優秀賞に同君を推薦します.

区切


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