特別小特集 ネットワーク数理の新潮流 編集にあたって

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Vol.105 No.1 (2022/1) 目次へ

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特別小特集 ネットワーク数理の新潮流

編集にあたって

編集チームリーダー 笠原正治

 情報通信網や電力網,道路や鉄道の交通網,更には人間の関係性を表すネットワークなど,ネットワークで表現できる対象は増大かつ多様化し,ネットワークに内在する定量的・定性的特徴や頂点間の関係性を把握して適切なコミュニケーションや情報伝達を行うことの重要性が高まってきている.ネットワーク研究の基礎理論として,古典的にはグラフ理論やネットワーク最適化,待ち行列網の理論などがあるが,近年のネットワーク研究対象の広がり,科学的・工学的なネットワーク設計・制御・構成法の必要性の高まり,更には高信頼ネットワークサービスの需要増大とともに,ネットワークを特徴付ける新しい理論や計算アルゴリズムの研究が活発化している.本特別小特集では,ネットワークを数理的に分析する新しい理論的・アルゴリズム的アプローチについて,気鋭の研究者の方に解説して頂く.

 1章では,二分決定グラフ(BDD)を用いたネットワーク信頼性評価手法について,井上武氏(NTT)に解説をして頂く.一般に,高信頼ネットワークではリンクが故障してもノード同士が高確率で通信できることが求められるが,正確な確率評価は計算量的に簡単ではない.ここではそのような信頼性評価を効率的に行えるデータ構造の一つであるBDDと近年発展してきた関連アルゴリズムについて紹介頂く.

 2章では,田中雄一氏(東京農工大)にグラフ信号処理の話題としてグラフサンプリングについて解説をして頂く.一般に,センサ等で収集されるデータは膨大でかつネットワーク上の頂点に遍在するため,データをサンプリングして取り扱う必要がある.ここではそのような遍在データのサンプリング定理をグラフ信号処理の視点から解説して頂くとともに,センサ配置や機械学習などの具体的な応用例についても紹介頂く.

 3章では,無線ネットワークの応用に向けた分散協調的な機械学習である連合機械学習について,西尾理志氏(東工大)に解説して頂く.機械学習では,質の高い訓練データを大量に使用してモデルを学習させることが欠かせないが,大規模なIoTネットワークでは,大量の収集データをクラウド上のサーバに集約して処理を行うことは困難である.ここではネットワーク上の端末が協調して機械学習タスクを解く仕組みとして近年注目を集める連合機械学習について,無線ネットワークでの応用における課題を中心に解説して頂く.

 4章では,確率幾何を用いた無線通信ネットワークの性能解析について,木村達明氏(阪大)に解説頂く.確率幾何は,無線基地局などのノードが空間的に散らばって配置されている状況を表現する確率モデルであり,無線通信ネットワークの性能評価を行う数理モデルとして注目されている.ここでは,確率幾何を用いた無線通信ネットワークの基本的な解析フレームワークについて解説頂くとともに,無線通信における干渉波の時空間特性の解析についても紹介して頂く.

 最後に5章ではネットワーク科学的な話題として,ネットワーク上で同じ経路を進んだり戻ったりするバックトラックがネットワーク分析に与える悪影響とそれを取り除くためのアプローチについて,小蔵正輝氏(阪大)に解説して頂く.グラフ上でのランダムウォークや感染症モデル,ネットワーク中心性を分析する際,行きつ戻りつするバックトラックが存在すると,評価尺度の収束性や精度が悪くなることが知られている.ここでは非バックトラック行列というバックトラックを取り除くアプローチとその効用について,具体例とともに紹介して頂く.

 最後に,大変お忙しいところ,本特別小特集の解説記事を御執筆頂いた執筆者の皆様,編集作業に御尽力頂いた特別小特集編集チームの皆様,学会事務局の皆様に深く感謝申し上げます.

特別小特集編集チーム

 笠原 正治  安達 宏一  石橋 圭介  岡本 英二  東野 武史  堀山 貴史 


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