特別小特集 1. BDDを用いたネットワーク信頼性評価手法の進展

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特別小特集 1. BDDを用いたネットワーク信頼性評価手法の進展 Research Trends in Network Reliability with BDDs 井上 武

井上 武 正員 日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所

Takeru INOUE, Member (NTT Communication Science Laboratories, NIPPON TELEGRAPH AND TELEPHONE CORPORATION, Kyoto-fu, 619-0237 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.105 No.1 pp.2-8 2022年1月

©電子情報通信学会2022

1.は じ め に

 通信や電力,ガス,水道,輸送などの社会インフラはネットワーク形の大規模システムであり,その信頼性を正確に評価する手法は重要である.伝統的に,ネットワークの信頼性は「指定されたノード間の連結確率」によって評価されてきた.これは,「各リンクが独立かつ確率的に故障するとき,ノード間に稼動リンクのみから成るパスが存在する確率」として定義される(1),(2).連結性はネットワークが機能するための必要条件となるため,根本的な尺度とみなされる.例を示すと,図1(a)では,各リンクの稼動率をmathとすると,黒ノードの連結確率はmathとなる.

図1 信頼性評価に用いるネットワークの例

 ネットワーク信頼性の概念は単純であるが,正確な評価は計算量的に極めて困難である.例えば,図1(b)のように僅か7リンクのネットワークでも,黒ノードの連結確率はmathmathmathmathmathmathmathmathのようにかなり複雑になる.これは,リンク数に対して指数的な故障パターンが存在するためであり,計算複雑性の観点では#P完全というクラスに属する(3).何十年にもわたって,数多くのアプローチが研究されてきたが(4),近年ではBDD(Binary Decision Diagram)(5)というデータ構造を用いた手法(6)(8)が最も効率的と考えられている(4).様々な故障パターンをBDDとしてコンパクトに表し,動的計画法によって連結確率を効率的に計算する(注1)

 従来は「独立なリンク故障における連結性」という単純な問題が中心だったが,近年,より複雑な問題での研究が進んでいる.例えば,停電などによりノードも故障する.連結性だけでなく混雑も考慮したい.故障は独立事象とは限らない.信頼性を評価するだけでなく最大化する設計法も欲しい.複数事業者にまたがるネットワークの信頼性も評価したい.本稿では,これらの課題に取り組んだ一連の研究を,二つの着眼点に沿って紹介する.3.ノード故障など複雑な条件でのBDD構築.4.最適設計などのための“bound”としてのBDD利用.

2.ネットワーク信頼性評価とBDD


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