特別小特集 4. 確率幾何アプローチによる無線通信ネットワークの性能解析

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特別小特集 4. 確率幾何アプローチによる無線通信ネットワークの性能解析 Performance Analysis of Wireless Communication Networks via Stochastic Geometry Approach 木村達明

木村達明 正員 大阪大学大学院工学研究科電気電子情報通信工学専攻

Tatsuaki KIMURA, Member (Graduate School of Engineering, Osaka university, Suita-shi, 565-0871 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.105 No.1 pp.22-26 2022年1月

©電子情報通信学会2022

1.は じ め に

 既に展開が開始された5Gや,検討の進むbeyond 5G(B5G)では,超低遅延かつ超高信頼な通信環境のユビキタスな提供に向けて,Massive MIMO,ミリ波,テラヘルツ波通信といった多種多様な無線通信技術の開発・導入が進んでいる.このように複雑化する無線通信ネットワークに対し,個々の通信端末や伝送路単位ではなく,ネットワーク全体の性能を理論的に解析するアプローチとして,確率幾何(stochastic geometry)と呼ばれる手法が,過去10年ほどにおいて注目を集めている.確率幾何は,空間的な確率過程を用いた数理解析手法であり,特に無線通信ネットワークの解析においては,無線基地局や通信端末のランダムな配置を空間点過程によりモデル化する.更に,電波伝搬路のランダム性を表す確率モデルと組み合わせることで,SINR(Signal to Interference plus Noise power Ratio),通信成功確率やデータレートなどの性能指標を,シミュレーションに頼ることなく理論的に評価できる.このため,確率幾何は様々な最新の無線通信技術の性能評価や設計に応用されている.

 本稿では,無線通信の研究分野において今や一つの標準的なツールとなった,確率幾何を紹介する.まず2.では確率幾何アプローチによる性能解析の基本的なフレームワークを紹介し,続いて3.では,発展的な話題として,電波伝搬路におけるシャドーイングの空間相関の影響を考慮した解析の事例を紹介する.

2.確率幾何アプローチの基本フレームワーク

 確率幾何は,空間的な確率過程を用いて,空間上(mathmathなど)のランダムな現象のモデリングや解析を行う数理的な手法であり,従来,地質学,林学,画像解析などの多様な分野に応用されてきた(1).特に近年,文献(2),(3)などで確率幾何を用いた無線ネットワークの性能解析のフレームワークが数理的に扱いやすい形で提案されたことをきっかけに,現在は様々な無線通信技術の性能評価に応用されている.本章ではまず,このアプローチの肝である,無線ネットワークの空間確率モデル化法について述べ,その後,性能解析の例を紹介する.なお本章では,特定の無線ネットワークを想定せず,共に単一のアンテナを持つ,電波を送信する無線基地局,及び,それを受信する通信端末から構成される,一般的な無線ネットワークを表す抽象的な数理モデルを考える.

2.1 無線通信ネットワークのモデル化


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