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我々がコンピュータを利用してデータを処理しているサイバー空間は,果たして真のフィジカル空間を表していると言えるのだろうか? サンプリング定理(1),(2)はこの問いに一つの答えを与える.すなわち,十分に滑らかなアナログ信号(フィジカル空間)は離散点上のサンプル(サイバー空間)から完全に復元できる.信号のサンプリングと復元は現在のICT社会の礎であると同時に,現在もなお盛んに研究されている信号処理の中心的研究トピックでもある.
本稿ではグラフ信号処理(3)~(5)におけるサンプリング定理(6)に焦点を当てる.グラフ信号処理は,グラフの頂点上に定義域を持つディジタル信号を解析するための理論やアルゴリズムの一群を指す.グラフはネットワークの数理的表現である.社会的ネットワーク,脳機能ネットワーク,センサネットワークなど,ネットワークは無数に存在し,また,ネットワーク上の頂点(ノード)にデータ(信号)が存在する場合も多い.グラフ信号処理は,従来の時間・空間領域の信号処理の枠組みを拡張しようとする取組みの一種である.
従来の信号処理で検討の中心となってきた信号は,その「構造」がサンプリング周波数により一意に決定される.一方,グラフ信号処理では,信号の構造をグラフという形で明に与え,その上で信号処理理論を構築することに特徴がある.その理論はグラフ理論や調和解析だけでなく,制御,機械学習,情報理論など幅広い分野と深く関連している(注1).グラフ信号処理はネットワーク上のデータ解析を統一した理論的な枠組みで議論できるため,無数の応用が存在する.同時に,ネットワーク上のデータは非常に大規模である場合が多いため,応用に際しては効率的な処理が求められる.そのため,理論と応用の双方の側面から,グラフ信号処理は大きく発展を続けている.
グラフ信号――ネットワーク上のデータ――のサンプリングがユニークな点は,「良い」サンプリングと「悪い」サンプリングが存在することである.これは,グラフでは局所的な性質(接続されている辺の本数等)が頂点によって異なることによる.すなわち,グラフ上のデータのためには適切なサンプリングが存在し,またそれを決定する必要がある.
例えば図1のグラフを見てみよう.これは頂点数128の6クラスタから成るグラフである.グラフが表しているネットワークは何でもよいが,例えばセンサネットワークだとすると,頂点がセンサ,辺がセンサ間の何らかの関係を表していると捉えることができる.さて,今手元にあるセンサが10個だけだとしよう.このとき,図1(a)のネットワーク上のどこにセンサを配置すればよいだろうか? あるいは,図1(b),(c)及び(d)のセンサ配置のどれが「良い」だろうか? グラフサンプリング定理は,これらの問いに信号処理の観点から答えを与えることができる.
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