電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
© Copyright IEICE. All rights reserved.
|
機械学習を活用したネットワーク監視・予測・制御技術の最新動向
小特集 3.
機械学習を用いたネットワークの自動設計技術
Network Design Automation Technology by AI/ML
Abstract
近年,様々な産業の従事者が各々の要件に合わせた高品質で安定したネットワークを柔軟かつ迅速に構築可能にするために,ネットワークの自律的な運用管理技術の研究開発が盛んに取り組まれている.筆者らは,ネットワークの自律化を実現するコア技術の一つとして,ネットワークの自動設計技術の研究開発を推進してきた.本稿では,まず自動設計技術の概要を示し,これを機械学習によって拡張し,より柔軟・迅速かつ高品質な設計を可能とする手法について述べる.また,簡易なサンプルを用いた実験を通じてその実現性と有効性を議論する.
キーワード:自動設計,自律ネットワーク,強化学習,GNN(Graph Neural Network)
近年,様々な産業においてICT(Information and Communication Technology)の活用を前提に業務の抜本的な改革や新たな価値の創造を図るDX(Digital Transformation)が注目を集めている.DXの推進には,ネットワークの活用が不可欠であり,各産業における要件に応じたネットワークを誰でも柔軟かつ迅速に活用できることが求められている.しかしながら,先進国を中心に少子高齢化による労働者や熟練工の減少が進む中では,常に十分な技術者を確保することは困難である.また,要件に応じたネットワークを提供するには,関連するアプリケーションやITインフラ等を含むシステム全体を構築する必要があり,これには高度な技術的知見が必要である.高まるネットワークの需要を減りゆく技術者によって支える体制は限界を迎えつつあり,その提供や運用を自律化する技術への期待が高まっている(1).
ネットワークの運用工程は,大まかに(1)ネットワークの監視,(2)監視結果の分析,(3)分析結果を踏まえたネットワークの設計や対処作業の計画,(4)計画に基づく作業の実行の4ステップに分けられる(2).ネットワークの運用を自律化するには,少なくともこれらの工程を自動化する必要があり,このうち筆者らは特に設計工程の自動化に取り組んできた(3).
設計に自動化が必要となる理由は,あるべきネットワークの構成が運用中に変化するためである.例えば,サービスの需要が変動し,アクセス頻度が増加した場合には,割り当てる資源量や利用する機材などを変更する必要がある.障害が発生した場合には,機材を切り換えるために一時的に予備の資源を追加することがある.一部の機材を,より効率の良い機種に置き換えることもある.こうした事情によって生じる構成のバリエーションは無数にあり,これをあらかじめ人手で用意しておくことは困難である.想定する変化のパターンを限定すれば,発生し得る構成のバリエーションは減らせるが,対応可能な状況の多様性が失われてしまう.そこで,様々な構成を柔軟に設計可能な自動設計技術が必要となる.
上で例示したような構成のバリエーションには,それらを生じさせる共通的で根源的な要件が存在する.例えば,「本店と支店の間で社員がストレスなく通信可能にしたい」という要件があるとする.これに対して,社員数や通信の用途,必要な安定性,掛けられる予算,利用可能な機材,利用する機材の動作に必要な条件,などの様々な付帯条件が重なることで,具体的な構成のバリエーションが生じる.そこで筆者らは,前述の根源的な利用者の要件を基に,これを満たす具体的なネットワーク構成を導出する自動設計技術を開発することで,運用中に生じる変化への対応を自動化する手法の開発を目指している.これには様々な条件の組合せから成る状況に応じて,適切な機器や設定などを選択する判断能力が必要であり,本研究ではこれを機械学習によって獲得する.
続きを読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。
電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。
電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード