電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
© Copyright IEICE. All rights reserved.
|
解説
量子暗号とその応用について
Quantum Cryptography and Its Applications
A bstract
量子暗号は,将来にわたり解読されるリスクがなく超長期的に情報を保護できる暗号方式で,国家レベルの重要な通信システムなどに適用が期待されている.たとえ最高性能の量子コンピュータを使おうとも,絶対に解読できないことが保証されており,それが「絶対安全」という量子暗号の最大の意義である.本稿の前半では量子暗号と量子鍵配送の関係について述べ,量子暗号がいかにして絶対安全を保証しているかについて説明する.後半では量子鍵配送技術の開発状況と,量子暗号の社会実装事例について紹介する.
キーワード:量子暗号,量子鍵配送,ワンタイムパッド,絶対安全
今日の情報社会において,仕事と私生活のどちらにおいても通信を日常のように使う.昨今のライフスタイルは爆発的なトラヒックを生み出している.2020年のデータではあるが,我が国の固定系ブロードバンドトラヒックは前年対比で同月56.7%も増加している(1).このような情報社会において通信環境はますます重要なインフラになっており,今後もこのような情報社会を支えるために,情報セキュリティの重要性が高まっている.
現代暗号と呼ばれる従来の暗号方式は,送信側と受信側で暗号に使う鍵を持ち,かつ鍵を秘密にすることで,第三者に鍵を推測されない限り暗号が破られないという仕組みに基づく.しかし,このような暗号方式の安全性は量子コンピュータの登場によって脅かされている.RSA(用語)暗号のように,非常に大きな数の素因数分解の計算は膨大な時間がかかるといった原理は,量子コンピュータの登場により短時間で計算されてしまう可能性がある.量子コンピュータが現実のものとなった今,現代暗号の危たい化が危惧されている.
高速な計算スピードを持った量子コンピュータが登場しても,絶対に解読されないことが理論的に保証されているのが量子暗号である.量子暗号の研究開発については,国際社会でも動きが活発である.ITU-T(用語)では量子暗号に関する標準化が加速している(2).アジアでは中国や韓国が積極的な開発を行っており,ヨーロッパではイギリスの動きが目立つ.日本でも継続した研究開発が進められており,2022年度の予算では成長戦略として“「経済安全保障」について,量子暗号通信の研究開発の推進や,重要技術の管理体制等を強化”が明記(3)された.重要技術や国家レベルの情報などを守る技術の一つとして,量子暗号の社会実装の具体化に期待が高まっている.
量子暗号は,「量子鍵配送(QKD: Quantum Key Distribution)」という暗号鍵を共有する仕組みと,「ワンタイムパッド(One-Time Pad)」という暗号化/復号方式の二つの部分から成る(図1).
続きを読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。
電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。
電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード