巻頭言 多言語化による新たな開国

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Vol.105 No.12 (2022/12) 目次へ

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巻頭言

エレクトロニクスソサイエティ会長 藤島 実多言語化による新たな開国 New Opening of the Country through Multilingualization

 オミクロンの第7波がようやく沈静化し(10月13日執筆時点),10月11日,外国人に対する国境措置が大幅に緩和されました.これは,「訪日観光復活へ「開国」」(10月2日時事ドットコム)と表現されたりもします.幕末の開国は,ペリー来航後の1854年の下田・函館開港に始まります.いずれも物理的な人,物に対する開国です.一方,情報流通に目を向けると,日本で外国の公開情報を入手することや,外国で日本の公開情報を見ることには何の規制もありません.しかし,現実には,言葉の壁があります.

 電子情報通信の分野では,IEEEという巨大な学会があります.英文論文であれば,IEEEの検索プラットホームXploreを利用する人が多いのではないでしょうか.一方,電子情報通信学会の和文論文誌,特に招待論文のダウンロード数は多く,Xploreでは得られない日本語での情報入手に一定のニーズがあることが分かります.

 また,日本語と英語の文章をつなぐなどの翻訳も,近年目覚ましい進歩を遂げています.例えば,Xploreで公開されている論文をChrome(Googleのブラウザ)で開くと,HTMLテキストがニューラル機械翻訳で翻訳され,論文の要点を読むのに英語で苦労することはありません.母国語で論文を読むメリットは,英語で読むよりも何倍も速く斜め読みができることです.3倍のスピードで論文を読むことができれば,同じ時間で3倍の論文を読むことができます.これは大きなアドバンテージです.しかし,機械翻訳のメリットは速読だけではありません.

 機械翻訳を利用した英文ジャーナルが多言語化されれば,英文ジャーナルの国際性と日本語ジャーナルの地域性を兼ね備えた新しいプラットホームが構築できます.英文原著論文には,これまでどおり論文のIDであるDOI(Digital Object Identifier)が付与され,PDF形式で公開されます.一方,同じ原稿をHTMLで多言語に翻訳し,固有のURLで保存すると,そこに現地の言葉で書かれたHTML論文が存在することになります.そうなれば,現地の言葉が検索のキーワードになり,世界中の多くの人がその論文に触れることができます.そのうちの一定割合がその論文を引用すれば,当然インパクトファクターは上がるでしょう.これは,かつてのように人や物の国境を取り払う革命ではなく,情報の国境を取り払う革命,つまり開国2.0とでも呼ぶべきものではないでしょうか.

 インパクトファクターを上げるためには,論文の質を上げることが重要ですが,いくら良い論文でも読まれなければ良い論文として認識されません.良い論文は,常に人の目に触れるプラットホームに掲載されれば,すぐに広まります.本会の英文誌は,無数の他の雑誌の陰に埋もれて,人々の目に触れにくくなっています.大通りに面した店舗であれば,多くの人の目に触れ,そこで売られている商品を手に取る機会も多いでしょう.しかし,ひっそりとした路地裏にある店では,どんなに良い商品を売っていても,その路地を利用する一部の人しか目にすることができません.どんなに良い商品でも,そこに存在することが知られなければ,多くの人の目に留まることはないのです.

 多くの商品を購入してもらえる実績のある店でないと,だんだんお客さんが離れていってしまうのと同様,インパクトファクターの高い論文誌を持たないと会員離れはやむを得ないのかもしれません.多言語化によって学会のコンテンツを広く世界に発信することから始まり,世界中のコンテンツに誰でもアクセスできる,情報化時代に向けた新しい試みが進むことを願っています.


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