小特集 電子スピンの回路とシステムへの応用 編集にあたって

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Vol.105 No.12 (2022/12) 目次へ

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小特集

電子スピンの回路とシステムへの応用

小特集編集にあたって

編集チームリーダー イスラム マーフズル

 人類は物理現象を自由に操り,様々な機能を持つデバイスを実現してきた.現代社会はマクロの電磁現象を応用した回路システムにより実現されており,3nm寸法のトランジスタを用いたシステムも現在実現可能になっている.この著しい発展を継続させるために,粒子レベルの現象(電子スピン,量子もつれ,量子重ね合わせなど)を応用したシステムが求められている.本小特集では,電子が持つスピン(場の角運動量)に着目し,電子スピンの様々な応用事例を紹介していく.電子スピンは従来から電子スピン共鳴(ESR: Electron Spin Resonance)の測定装置やハードディスクなどで情報の担い手として利用されてきた.近年は電子スピンの新たな制御方法や量子コンピューティングへの応用などの発表が相次いでおり,電子スピンの回路とシステムへの応用がここにきて注目されてきている.本小特集では,電子スピンの様々な応用例及びそれらを実現する材料に関して解説し,本小特集が多くの回路とシステムの設計者にとって参考となるべく次の五つのトピックについて紹介していく.

 第1章では,スピントロニクスデバイスの主要材料である強磁性体と反強磁性体を用いたスピン流のメカニズムについて京都大学の森山貴広氏に解説頂く.強磁性体に比べて,反強磁性体の場合,磁化方向を制御・検出することが一般的に困難であると考えられてきた.しかし,最近の研究結果から,強磁性体と同様に,スピン流と反強磁性体の磁化との相互作用が存在することが示された.本章では,反強磁性体における高速ダイナミクスとそのスピン相互作用についての最近の研究結果について紹介頂く.

 第2章では,MOSトランジスタにスピン機能を付加し,高機能化を図る「スピンMOSFET」について京都大学の李垂範氏らに解説頂く.MOSFETにおいてゲート電界を用いたスピン操作は汎用性や局所制御性の点で優れるが,シリコン材料では実現困難とされてきた.本章では,シリコンのMOS構造における電界に着目し,ラシュバ型スピン軌道相互作用がゲート電界により発現できることについて紹介頂く.

 第3章では,強磁性トンネル接合の強磁性電極材料に応じたデバイスについて東北大学の永沼博氏に解説頂く.強磁性トンネル接合素子は,基礎物性の理解が深まり,回路システムと統合させた様々なデバイスを目指す段階となっている.本章では,強磁性材料の磁気特性により,超高感度磁気センサや不揮発性磁気メモリ素子及びスピン発振・検波素子等のデバイス例を幾つか紹介頂く.

 第4章では,ナノスケールレベルの磁界ダイナミクスについて日立製作所の谷垣俊明氏に解説頂く.電子顕微鏡によるナノスケール観察はデバイス開発及び製造管理において有用な解析手法の一つである.本章では,低消費電力デバイスへの応用が期待されるスキルミオンの磁界観察,三次元磁界観察及びサブナノスケール磁界観察への電子線ホログラフィーの応用事例を紹介頂く.

 第5章では,ロジック混載STT-MRAMの開発動向についてソニーセミコンダクタソリューションズの別所和宏氏に解説頂く.まず,積層CISプロセスに適合する40nmロジック混載STT-MRAMの実証結果について説明頂く.次に,MTJ材料及びプロセスの改善により,積層プロセスに耐え,かつバッファメモリ向けの高速書込みと高エンデュランスの実現方法について紹介頂く.

 本小特集を通して,多くの方に電子スピンに関する理解と,スピンを応用した回路とシステム技術に関する関心をお持ち頂き,当分野の研究開発の進展の一助となれば幸いです.最後に,多忙な中,執筆に御尽力頂いた執筆者の皆様,執筆候補者の提案など御協力を頂いた小特集編集チームの皆様,そして御協力を賜りました事務局ほか関係各位に感謝致します.

小特集編集チーム

 イスラム マーフズル 山脇 大造      澤畠 康仁      岡崎 秀晃      佐藤 弘樹      鈴木 寛人      髙島 康裕     


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