電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
© Copyright IEICE. All rights reserved.
|
システム数理の現状と展望
小特集 4.
プロセスマイニングの初歩と応用
An Introduction and Applications of Process Mining
Abstract
プロセスマイニングはDX(ディジタルトランスフォーメーション)の一潮流として注目を集めている.多数のツールリリースやサービス開始が相次いでおり,成功事例も知られつつある.プロセスマイニングはデータ活用の側面が強調されることが多いが,その技術の核心がワークフローネット(ペトリネットのサブクラス)に起源を持つことは意外と知られていない.本稿ではワークフローネットとプロセスマイニングの数学的初歩について解説した後,会計監査における応用事例を紹介し,ツール/サービスの最新動向を展望する.
キーワード:プロセスマイニング,ワークフローネット,DX,会計監査
近年の情報システムを取り巻く環境は,DX(ディジタルトランスフォーメーション)(1)と呼ばれる変革の中にある.DXは様々な技術分野をカバーする概念であるが,プロセスマイニングは情報システムの使用履歴からビジネスプロセスを再現して,発見された課題を改善する技術であり,DXの一角を形成している.例えば日本国内では,代表的文献(2)の翻訳出版や,複数の商用ツールがサービス開始されるなど活況を呈している.更に,これらのツールが経営上有用であることを示す事例も共有されつつある.このような背景から,本会も2021年度の総合大会にてプロセスマイニングのシンポジウムを開催した(3).また本会誌創立100周年記念特集にて,山口はプロセスマイニングを「例示的手法」と呼び数理モデル研究の今後の潮流の一つと捉えている(4).
プロセスマイニングはビジネスプロセスに関するデータ活用ソリューションの総称として一般に知られてきている.しかし狭義にはプロセスマイニングは,イベントログからビジネスプロセスのモデルを推定する技術を指し(3),その数理的起源はワークフローネットの理論である.ワークフローネットは,代表的な離散事象モデル:ペトリネット(5)のサブクラスの一つである.
本稿はプロセスマイニングの現状を明らかにするため,理論的な背景から実用化の動向までを包括的に解説することを狙う.2.ではワークフローネットとその学習の数学的定義から始め,プロセスマイニングの初歩と実例を示す.3.ではこれまでのプロセスマイニングツール・サービスについて短くまとめた後,会計監査におけるプロセスマイニングの活用事例を紹介する.次に4.では,プロセスマイニングソリューションの最新動向と今後の進化の見通しを解説する.最後に5.では,総括と今後の展望を述べる.
なお,1,2,5.は豊嶋,3.は新出谷,4.は松尾が主に執筆した.
プロセスマイニングの概念は,IEEEのタスクフォースによるマニフェストに,最も簡潔にまとめられている.マニフェストは各国語版も存在しており,日本語でも読むことができる(6).プロセスマイニングは「Process Discovery」,「Conformance Checking」,「Enhancement」,更に近年では「Operational Support」を加えた四つの側面を持つ(7).本章では,ワークフローネットと密接に関係する最初の二者について解説する.
プロセスマイニングで扱うデータは,ワークフローの実態を捉えることができるように構造化されている.データの最小単位は属性(attribute)である.その中で必須の属性はアクティビティ(注1)(activity)である.アクティビティは「申請処理」「在庫確認」などの作業名称に相当する.アクティビティと,実行時間や実行者などの属性を組みにしたものをイベント(event)と呼ぶ.複数のイベントを発生順序付きでまとめた集合はケース(注2)(case)である.現実のワークフローにおいて,1個の案件の開始から終了するまでの一連のデータがケースである.通常イベントログと呼ぶときはケースの集合を指す.
続きを読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。
電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。
電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード